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ここらで3分、会話がコワイ

いきなり本題って、それはなし ~心地よい「まくら」~

いきなり本題って、それはなし ~心地よい「まくら」~

落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

いきなり本題って、それはなし
~心地よい「まくら」~

ちょっとした視野の広さを示せる

 「皆さん、遠路はるばる、私の独演会にお越しくださり、まことにありがとうございます、って私のほうがが遠くから来ているんでしょうけれども(笑)。さて昨今、トランプ米大統領の発言がいろいろと問題になっていますが……」。

 落語を聞きに行くと、こういった軽い話で場を和ませて、時事ネタに移っていく。落語の本編に入る前に、長い場合には10分以上、いわゆる「まくら」が続きます。

 「まくら」は大事です。つまらない落語を聞いているときにすやすやと眠るため……ではなくて、噺家の創り出す世界に入る儀式みたいなもので、これがないとどうも唐突な感じがするのです。実際に仕事で遅れて会場に入ったときなどには、しばらく居心地の悪さを感じたりもします。

 人との会話でも同じこと。いきなり本題に入るのではなく、心地よい「まくら」が必要です。決してプロの落語家のように笑いを取る必要はありませんが、聞く人に合わせた軽い話もできないようでは、ビジネスパーソンとしてはまだまだです。

 「まくら」のネタは新聞を読めばいくらでも転がっています。ビジネスパーソンとしては、異業種の動向などにも目配せすると、ちょっとした視野の広さを示すこともできます。季節に合わせて歳時記から気の利いた言葉を引っ張り出すなどということもしゃれています。

少しでも関連づけるとセンスが光る

 ただ、あまり自分の意見をはっきり言わないことが重要です。意見表明に主眼に置いてしまうと、それ自体が意味を持ってしまいます。適当なところで「どうなるんでしょうねえ」と区切りを付け、「ところで」と本題に入れば、こちらの世界にうまく引き込めること間違いなしでしょう。

 「まくら」を考えることは、実はそれ自体が大切な生活習慣です。常に「こんなことを話したら、○○さんは興味を持ってくれるのではいか」と、話す対象を意識しながら日々の情報収集に努める。私も大学で教える際には、こんな「まくら」を日々の授業に生かしています。学生相手ですから、話題の歌手の話からちょっとした政治の話まで、3分をめどに軽い話から始めています。

 おっと、言い忘れましたが、「まくら」は本題とまったく関係のない話でもいいですが、少しだけ関連しているとセンスが光ります。冒頭の話の後でしたら、「ところでわが社では、トランプに代わる新しいカードゲームを開発中でして……」となれば、クスッと笑ってもらえるでしょうか。

 よい「まくら」はビジネスの疲れを癒やし、よいコミュニケーションの始まりとなることをお忘れなく。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。