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数字を読み解く

「売り手市場が加速」は朗報か

「売り手市場が加速」は朗報か

 転職に関わる代表的な指標としては、厚生労働省が公共職業安定所における求人、求職などの状況をまとめた「有効求人倍率」、総務省が全国約4万世帯を対象に行う労働力調査から明らかになる状況をまとめた「完全失業率」などが挙げられます。これ以外にも、景気判断などの基軸となる指標は数多く発表されています。
 新聞やテレビの報道で毎日のように耳にしたり、目に止まったりするだけに、ビジネスのみならず転職を検討、実行するうえでも注目しておきたい数字。このコラムでは日本経済研究センターの専門家による独自の視点で、統計や指標などで示される様々な数字を、雇用情勢に照らし合わせて読み解いていきます。

 4月末に公表された2016年度の有効求人倍率は1.39倍となり1990年度のバブル期に次ぐ高い水準になりました。失業率も3%と90年代半ば以降、最も小さい値になりました。直近の17年3月は有効求人倍率が1.45倍、失業率は2.8%となっています。正社員の有効求人倍率も0.94倍となり過去最高を更新し続けており、正規社員数も前年同月比で28カ月連続増加しています。一方で契約社員数は1月以降減少しており、人手不足を反映して正規雇用へ振り替わっている様子がうかがえます。

 産業別に新規求人の様子をみると、製造業が2月、3月と前年同月比で10.7%、11.0%と2けた増になっています。16年8月以降、増加基調が続いており、生産性が高いとされる製造業での求人増は所得の増加に結びつく可能性が高く、朗報でしょう。

 またネット通販対応の宅配サービスの負担が社会問題化していますが、3月の運輸業の新規求人は前同月に比べて12.2%増となっており、何とか人手不足を解消しようという動きが見て取れます。しかし就業者は4万人減っています。人手不足に悩む医療・福祉も同様の動きを示しており、新規求人数は一貫して増加していますが、2月、3月の就業者は前年同月に比べて20万人、17万人と大きく減少しています。足元の景気の良さを受け、より待遇のよい職業へ雇用が異動しているようです。

 ただし雇用のまれにみる好転でも賃金へ反映は限定的です。3月の実質賃金は前年同月比0.8減となっています。化石燃料価格の大幅下落の影響が今後は剥落していくので、消費者物価は小幅ながら上昇するとみられます。そのため名目賃金が物価以上に上がらないと実質賃金はマイナスになるわけですが、正社員の給与は低下に転じています。人手不足を反映し、正社員で雇用されても賃金自体は上がらないという状況は簡単に解消されそうもありません。売り手市場の加速は手放しで「朗報」といえるわけではなさそうです。

(日本経済研究センター・主任研究員 小林辰男)