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数字を読み解く

生産性向上なしに賃上げなし

生産性向上なしに賃上げなし

 転職に関わる代表的な指標としては、厚生労働省が公共職業安定所における求人、求職などの状況をまとめた「有効求人倍率」、総務省が全国約4万世帯を対象に行う労働力調査から明らかになる状況をまとめた「完全失業率」などが挙げられます。これ以外にも、景気判断などの基軸となる指標は数多く発表されています。
 新聞やテレビの報道で毎日のように耳にしたり、目に止まったりするだけに、ビジネスのみならず転職を検討、実行するうえでも注目しておきたい数字。このコラムでは日本経済研究センターの専門家による独自の視点で、統計や指標などで示される様々な数字を、雇用情勢に照らし合わせて読み解いていきます。

 今年も春闘の季節です。2016年12月の有効求人倍率は1.43倍と極めて高い水準を維持し、失業率3.1%と完全雇用状態です。日本銀行の最新の短観調査の雇用人員判断DI(過剰と答えた企業の割合-不足と答えた企業の割合)は▲21%ポイント(▲はマイナス)と企業の大幅な不足感を示しています。先行きについても人手不足が深刻化するとみています。

 しかし賃上げのペースは極めて緩やかです。毎月勤労統計調査によると、16年の名目賃金の伸びは0.5%です。16年は物価が下がったので、実質賃金の伸び(0.7%)は名目を上回りますが、物価上昇率に基づき賃上げ要求する春闘方式では、要求水準自体が低くなり、物価の下落→賃金の低迷→物価の下落という悪循環から抜け出せません。

 人手不足なのに賃金全体でみると上がらない状況が続くのはなぜでしょうか? 一言でいうと生産性が向上していないからです。内閣府はGDP統計の全面的な改訂に基づき、潜在成長率(成長力)を0.8%と推計しています。労働投入量の増加と労働生産性向上の合計が成長力ですが、人口減少、高齢化の加速を受けて労働投入は増えないので、成長力=労働生産性の伸びです。0.8%という数字は実質賃金の伸びとほぼ符合しています。生産性の伸び以上に実質賃金は上がりません。

 この状況を雇用の内容面からみると、比較的生産性の低い産業の就業者が増えていることを示しています。医療・福祉は代表例で労働力調査によると16年9月が26万人増、10月が28万人増、11月は6万人減、12月が8万人増と前年同月に比べて増加基調が続いています。生産性が高い製造業は11月、12月と5万人減、10万人減となっています。情報通信業もほとんど就業者数は増えていません。

 米国では成長の分配を巡って格差問題が浮上、トランプ政権誕生の原動力になりましたが、日本は生産性向上による成長に乏しく、分配する果実が、そもそもない状況に陥っています。

(日本経済研究センター・主任研究員 小林辰男)