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数字を読み解く

「弱気の罠」に陥る日本

「弱気の罠」に陥る日本

 転職に関わる代表的な指標としては、厚生労働省が公共職業安定所における求人、求職などの状況をまとめた「有効求人倍率」、総務省が全国約4万世帯を対象に行う労働力調査から明らかになる状況をまとめた「完全失業率」などが挙げられます。これ以外にも、景気判断などの基軸となる指標は数多く発表されています。
 新聞やテレビの報道で毎日のように耳にしたり、目に止まったりするだけに、ビジネスのみならず転職を検討、実行するうえでも注目しておきたい数字。このコラムでは日本経済研究センターの専門家による独自の視点で、統計や指標などで示される様々な数字を、雇用情勢に照らし合わせて読み解いていきます。

 今月は10月28日に公表された日本経済研究センターの中期経済予測を紹介したいと思います。同予測は2030年度までの日本経済の見通しについて、人口推計や生産性の推移などを元に予測するものです。短期的な景気変動ではなく、中長期の成長力(潜在成長率)や産業構造、労働市場の変化を予測しています。

 中期予測では日本の成長力は足元の0.5%成長から低下し、20年代後半にゼロ成長に陥るとしています。成長力は、技術進歩や創意工夫が反映する全要素生産性、設備投資による資本ストック、労働力人口の増減で決まりますが、人口減のうえ設備投資による資本ストック増強も期待できないとしています。目一杯働いても、日本全体ではゼロ成長を維持するのが、やっとというわけです。
 このような環境下では賃金の伸びは期待できません。消費者物価上昇率を超える賃上げには踏み込まず、1人当たり雇用者報酬の伸びは30年度まで1%程度で推移するとみています。実質賃金の水準はほぼ横ばいにとどまり、労働分配率は低下し、企業から家計への好循環は働きそうもありません。

 産業構造では、30年度にはエレクトロニクス産業は消滅の危機を迎え、日本の国際競争力は一般機械、輸送機械、産業用電気機器への依存度が高まります。小売りやサービスなどは、内需よりも訪日外国人の増減、消費動向に左右されるようになる見通しです。また超高齢化が本格化し、医療・介護の従事者に対する需要が30年度までに500万人急拡大する可能性を指摘しています。
 こうした産業構造の変化の端緒は、近年の新規求人状況の小売や医療・福祉分野の高さに表れています。決して生産性が高いといえない分野の求人が強いことはよいシグナルとはいえません。この状況では、現役世代の消費は前の世代より低く、次の世代は現役世代よりさらに低く水準にとどまる「弱気の罠」にはまっており、抜け出せない状況が続いていると指摘しています。

 私が就職を考えた1980年代後半に就職人気ランキング上位に名を連ねていた会社は、その後、破綻したり、経営不振で外資に買収されたり、今なお経営危機が噂されたりする企業は、少なくありません。中には当時、「エクセレント・カンパニー」とされていた企業もあります。さすがに30年先は見通せなくても、転職や就職を考えるとき10年単位のスパンで考えることは重要でしょう。

(日本経済研究センター・主任研究員 小林辰男)