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数字を読み解く

金融緩和では生産性は向上しない

金融緩和では生産性は向上しない

 転職に関わる代表的な指標としては、厚生労働省が公共職業安定所における求人、求職などの状況をまとめた「有効求人倍率」、総務省が全国約4万世帯を対象に行う労働力調査から明らかになる状況をまとめた「完全失業率」などが挙げられます。これ以外にも、景気判断などの基軸となる指標は数多く発表されています。
 新聞やテレビの報道で毎日のように耳にしたり、目に止まったりするだけに、ビジネスのみならず転職を検討、実行するうえでも注目しておきたい数字。このコラムでは日本経済研究センターの専門家による独自の視点で、統計や指標などで示される様々な数字を、雇用情勢に照らし合わせて読み解いていきます。

 日本銀行は9月下旬にこれまでの量的・質的緩和政策を総括するとしてマイナス金利を維持しつつ、10年物国債の金利をゼロに誘導するほか、物価上昇率が2%を超えても緩和を続けるとの姿勢を打ち出しました。「出口なき金融政策」に陥っているようです。消費者物価上昇率は足元では下落傾向が続いており、金融緩和を止められる状況にはありません。しかし当センターの金融研究班の見通しでは、日銀が80兆円の新規国債買い入れを続けることは、17年半ばにも難しくなるとしています。量的緩和には限界が来ているわけです。

 そもそも今回の日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、量的緩和から静かに撤退する準備との見方も少なくありません。現状では10年物の金利はマイナスです。ゼロにするには、国債購入量を減らし、金利を上げる(国債の価格を下げる)しかありません。長期金利水準を操作するには、緩和とは逆行する方向に進まねばなりません。もちろん急激に購入量を減らすと、金利が跳ね上がることも想定されるので、減らす量は本当にわずかずつになると思います。それでも市場が日銀の金融緩和に対する姿勢の変化を感じとる可能性は高いでしょう。

 量的緩和の限界が見える状況では、金融政策はマイナス金利の深掘りに力点が置かれていくことが予測されます。顧客の預金金利をマイナスにしづらいため、経営に悪影響が出るとして銀行業界には反対論が根強いですが、北欧などの例をみると深掘りの余地がありそうです。

 ただ金融政策だけでは、日本の状況が今以上によくなることはないでしょう。8月のこのコラムでも言及しましたが、日本が抱える問題は需要不足による不況ではなく、生産性の伸びの低さによる実質所得の低迷です。8月の失業率は3.1%、有効求人倍率は1.37と完全雇用状態です。医療・福祉や宿泊業・飲食サービスの新規求人は前年同月比で二ケタ増となっています。こうした分野の生産性は必ずしも高いわけではありません。日本人は、生産性の低い仕事を目一杯働くことを続けている状態です。生産性向上は、金利を下げたり、財政出動したりすることでは決して実現しません。AIやIoT(モノのインターネット)、ビッグデータをフル活用する第4次産業革命に積極的に対応するしか、成熟した日本が生産性を向上させることはできません。個人も第4次産業革命に対応できないと、雇用されても所得は増えないという状態に追い込まれる恐れがあります。

(日本経済研究センター・主任研究員 小林辰男)