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数字を読み解く

不況ではなく、成長力の低下

不況ではなく、成長力の低下

 転職に関わる代表的な指標としては、厚生労働省が公共職業安定所における求人、求職などの状況をまとめた「有効求人倍率」、総務省が全国約4万世帯を対象に行う労働力調査から明らかになる状況をまとめた「完全失業率」などが挙げられます。これ以外にも、景気判断などの基軸となる指標は数多く発表されています。
 新聞やテレビの報道で毎日のように耳にしたり、目に止まったりするだけに、ビジネスのみならず転職を検討、実行するうえでも注目しておきたい数字。このコラムでは日本経済研究センターの専門家による独自の視点で、統計や指標などで示される様々な数字を、雇用情勢に照らし合わせて読み解いていきます。

 安倍晋三首相は、世界経済の低迷を要因として消費税率の10%への引き上げを2017年4月から19年10月へ2年半先延ばしする方針を明らかにしました。リーマンショック級の危機を回避する措置との説明です。中国や新興国などで金融危機が勃発する可能性はゼロではありませんが、仮に危機になりそうになったとしても日本が消費税率を2%引き上げないことが、どれほど役立つのか不透明です。景気対策として第二次補正予算が噂されていますが、こちらの効果も同様で疑問符が付きます。

 日本が直面する経済問題の本質は需要不足による不況ではなく、成長力(潜在GDP成長率)が「失われた20年」の間に恐ろしく低迷してしまったことです。人口減少、高齢化、労働生産性の低迷が原因ですが、それには需要喚起策の消費税率引き上げ延期も財政支出も何ら役立ちません。

 足元のデータで説明しましょう。16年1-3月期のGDP(国内総生産)は前期比0.4%増、うるう年効果を差し引くと、ほぼゼロ成長です。一方、1月以降4月までの失業率はいずれも3%前半、4月の有効求人倍率は全都道府県で1を超え、完全雇用が実現しています。

 ゼロ成長でも完全雇用が実現するほど、生産性が低いという状態になっています。日本人は「儲からない仕事をひたすら懸命にこなしている」という皮肉な状況です。この状況に大規模な需要喚起策は的外れなのは、理解していただけるでしょう。国民1人1人には、生活水準が上昇しないということは不況も成長力不足も同じですが、原因がまったく違います。当然、処方箋も異なります。

 もちろん成長力引き上げが重要課題であることは政府も認識しています。成長力を高めないと、財政再建や社会保障の充実に必要な消費増税の影響を成長で飲み込めないからです。16年度の「骨太の方針」に「アベノミクス・新3本の矢」で推進する第4次産業革命や同一賃金同一労働の実現など、成長力引き上げにつながる「政策目標」を盛り込みました。

 しかし目標はあっても、実現する「矢(具体策)」はありません。第4次産業革命や同一賃金同一労働の実現には、終身雇用や職能給といった雇用制度、研究開発の自前主義など企業社会にも大変革を迫る必要があります。それは消費増税の見送りや予算のバラマキとは違います。

(日本経済研究センター・主任研究員 小林辰男)