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数字を読み解く

完全雇用・最高益でも上がらない賃金 パラドックス状態の原因はどこに

完全雇用・最高益でも上がらない賃金 パラドックス状態の原因はどこに

 転職に関わる代表的な指標としては、厚生労働省が公共職業安定所における求人、求職などの状況をまとめた「有効求人倍率」、総務省が全国約4万世帯を対象に行う労働力調査から明らかになる状況をまとめた「完全失業率」などが挙げられます。これ以外にも、景気判断などの基軸となる指標は数多く発表されています。
 新聞やテレビの報道で毎日のように耳にしたり、目に止まったりするだけに、ビジネスのみならず転職を検討、実行するうえでも注目しておきたい数字。このコラムでは日本経済研究センターの専門家による独自の視点で、統計や指標などで示される様々な数字を、雇用情勢に照らし合わせて読み解いていきます。

 日本銀行が10月1日に公表した全国企業短期経済観測調査(日銀短観)をみると、大企業、中小企業ともに人手不足感がはっきりと表れています。大企業の雇用人員判断(「過剰」-「不足」、%ポイント)は▲9(▲はマイナス)ですが、先行きは▲10まで不足感が広がるとしています。中小企業の不足感はより深刻で、▲19から▲22まで高まるとなっています。企業の景況感を示す業況判断(「良い」-「悪い」)は現状の8から先行き5(全規模・全産業)へと停滞感もありますが、人手不足感はまだまだ強い状況です。
 また8月の有効求人倍率は1.23と前月よりも0.02ポイント改善しました。このペースで改善が進むと1990年のバブル景気の過熱感の中にいた時代の水準に達する勢いです。リーマンショック(2008年9月)前の景気回復期でも有効求人倍率は1.07がピークでしたので、雇用の基調がいかに強いか、わかると思います。当然、失業率は3.4%とほぼ完全雇用水準です。総務省の分析でも「需要不足要因」による失業は減り続けていると指摘しています。
 しかし実質賃金はほとんど上がっていません。6-8月期の前年同期比は▲1.0%です。消費者物価はエネルギー価格の下落で、低下傾向にあり、しばらくは実質賃金を押し下げる要因にならないと思いますが、17年4月に消費税率が2%上がると、実質賃金は14年度同様に大きく下がる可能性は高いでしょう。
 最新の法人企業統計では15年4-6月期の全産業の経常利益は20兆円を超え、前年同期比23.8%増の史上最高益になっています。完全雇用・最高益でも賃金が上がらないという「パラドックス」状態です。安倍政権は産業界に賃上げを迫り続けていますが、なかなか効果は上がっていません。このままでは景気回復の恩恵を個人が享受できない状況が続くわけです。パラドックスの本当の原因はわかりませんが、産業界が自らの将来を信じておらず、本気でよい待遇でよい人材を集めようとしていないか、急成長する有力な新興企業が生まれていないからではないでしょうか。

(日本経済研究センター・主任研究員 小林辰男)