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最終回 ~家族・友人・恋人~ よりよい関係をつくる想像力

最終回 ~家族・友人・恋人~ よりよい関係をつくる想像力

プロフィール
山田敏弘(やまだ・としひろ)岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)
1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。

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「ボクはパソコン。今日も朝早くから主の山田さんに起こされて、一日こき使われる……。旧式だから、命じられても早く表示できなくて、機嫌を損ねちゃうこともあるんだ。もう少し優しくされたら、張り切るんだけどなあ」

 小学校でときどき行う、相手の気持ちになって表現する作文です。「パソコン」のような無情物であっても、その立場になって表現してみると相手(パソコン)の気持ちに寄り添えます。

 立場を変えて表現する場合、日本語では多く、受身表現が用いられます。日本語はこの受身表現を多用する言語です。英語の場合、「山田さんがボクを起こし(立ち上げ)、一日こき使う」のように能動文を使うのが普通です。あくまで動作をする人を主人公にしたがる英語と、特定の登場人物を中心にできごとを捉えやすい日本語。同じ受身表現を持つ言語といっても違うものです。

 さて、あなたの行動を日々、家族や友人、恋人はどう見ているでしょうか。相手の立場に立って毎日の行動を振り返ってみましょう。すると、いろいろな気持ちが見えてきます。仕事や付き合いで帰宅が遅くなれば、当然家族は心配します。この「心配されている」(あるいはありがたいという気持ちを込めた「心配してくれている」)という気持ちを知り、相手の立場に立つことが、「思いやる」ということです。

 この思いやりがなくなるのが、顔の見えない「言い放ち」です。SNS(交流サイト)のようなツールにおいては、特に相手を思いやりにくいもの。送信のボタンを押す前に、この内容が読み手や話題の人物にどのような影響を及ぼすかを想像してみましょう。自分が言われたら嫌だなどというように、他者の立場に立ってことばを考える。この想像力は必ず、後悔しない人生へと導いてくれます。

 SNSだけでなく、昨今はさまざまな評価でも思いやりのない「言い放ち」が目立つようになりました。私も一生懸命、準備をして行った講演で、後日送って返された評価に胸をえぐるような言葉があったときには落ち込みました。評価の意見には不満の発散行為に過ぎないものと、次のよりよい講演につながる建設的なものとがあります。前者は主催者側まででとどめればよいもので、後者は講演者に届けるべきもの。講演会をよくするという大きな目標の下にあっても違うものなのです。

 講演なんかしない私には関係ないと思った方は、想像力が必要です。家庭や恋人との間でも同じことは起こりえます。誰かのしてくれたことを言下に批判的に述べれば、それは自己満足。決して事態を好転させません。相手がどうしてそのような行為をしたのか、その過程を考えや意図をくみ、よりよくその実現をともに考える言葉を投げかければ、きっと自分自身にかえってきます。

 受身や使役のような立場を変えてできごとを描く表現を「ヴォイス(態)」と言います。日本語はさまざまなヴォイスを敏感に使い分ける言語です。ちょっとの想像力で、豊かな言語生活を営んでいきましょう。

身近な間柄だからこそ、大切にしなければならないのが思いやり。立場を変えて表現することで、多様な見方を養い豊かな言葉遣いをしていきましょう。