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ビジネスで役立つ!ことばのお作法

第17回 商談・打ち合わせ編 言葉で地雷を踏まない

第17回 商談・打ち合わせ編 言葉で地雷を踏まない

プロフィール
山田敏弘(やまだ・としひろ)岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)
1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。

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「とりあえず会ってお話ししたいのですが、いつならお暇ですか」

 電話で話すにも直接会うにしても、カチンとくる言葉を投げかけてくる営業担当がいます。多くの場合、そういう担当に悪気はなく、ただ言葉を知らないだけなのですが、それが原因で交渉が台無しになりかねません。

何より気を付けたいのが口癖。「とりあえず」「まあ」「~でも(いい)など、「十分ではない」という意味の言葉は、真剣な商談を望んでいる人には、ほとんど侮辱に近い意味合いとして聞こえます。下手をすれば「忙しいときに『とりあえず』とは」と怒りが増す可能性もあります。しかし、これらの言葉は、同時に婉曲を好む日本人にとっては心地よいクッションとなるため多用されています。

 折に触れて、スマートフォンやICレコーダーなどで録音して自分の口癖を客観的に分析し、このようなぼかし表現を排除しましょう。会議編で会議の進行やプレゼンに触れましたが、より良い話し方を見いだすきっかけにもなります。転職活動をしている方は、面接対策として自己PRなどを録音して聞いてみるのもお薦めです。

また、前提を取り違えた言葉の選択も問題です。「いつならお暇ですか」という疑問文には、聞き手に暇があるという前提が含まれています。「時間があるか」というイエス・ノー疑問文と異なり、疑問詞疑問文は疑問の焦点がその疑問詞の部分に限定されます。その反面、残りの部分は前提、すなわち共有された事実となるのです。この場合は「お時間をいただけますでしょうか」とイエスかノーかで、まず意向を伺うべきです。

 話はそれますが、疑問詞疑問文をうまく用いると相手を誘導して自分の好ましい結論にもっていくこともできます。まだ値引きすると言っていない相手に対する「いくらまでなら値引きしてもらえますか」と言うのは、いくらかの値引きがしてもらえるということを含んだ質問ですから、なんらかの値引きがしてもらえるような会話の流れができやすくなります。

 カチンとくる言葉の代表は、なんと言っても敬語です。では、敬語が使えないことはなぜいけないこととなるのでしょうか。

 人は誰でも面子というものをもっています。自分の領域にずけずけと他人には入られたくないという防御本能のようなものです。敬語を使わないということは、この距離を縮めることです。他人に尊重されたいという面子がある人には、「です」「ます」のような丁寧語だけでなく、尊敬語や謙譲語が正しく使えるほうが、相手にとって「正しい」距離から話ができます。

 しかし、同時に人は友好的に接したいという欲求も持っています。仰々しい「おっしゃる」がうっとうしく感じるようになったら「言われる」のような軽い敬語を用い、それも外せるようになったら「です」「ます」を要所で用いるのです。

 ただ、このような関係を築いた後でも公の場面では敬語に戻します。公私の区別ができないことと、場面に応じた言葉遣いをすることは別物なのです。このような言葉遣いに「~てもらえる」などの恩恵表現も加われば、商談でも打ち合わせでも、お互いに気持ちのよい関係で行えるようになります。

言葉の距離感は心の距離。適切な言葉遣いで気持ちの良いやりとりを心がけましょう。