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第9回 あいさつ・お礼編 「自分の1年」を届ける

第9回 あいさつ・お礼編 「自分の1年」を届ける

プロフィール
山田敏弘(やまだ・としひろ)岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)
1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。

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謹賀新年
皆様にはよき新春をお迎えのことと存じます。
旧年中は何かとお世話になり、大変ありがとうございました。
本年もよろしくお願い申し上げます。
平成27年元旦
山田敏弘

 年賀状はもう、投函(とうかん)したでしょうか。この1枚をわずらわしい年中行事と思うか、自分の人柄を知ってもらういい機会と捉えるか――。人それぞれに思いはあるでしょう。年賀状という伝統的な文化を生かして「自分」を伝える、よい年始のあいさつをしましょう。

 年賀状の基本的な書き方として、文頭に賀詞(がし)あるいは祝詞(しゅくし)と呼ばれる言葉を置きます。「謹賀新年」でも「恭賀新年」でも構いません。中川越著『夏目漱石の手紙に学ぶ伝える工夫』(マガジンハウス)によると、夏目漱石は晩年、「恭賀新年 夏目金之助 一月一日 東京牛込早稲田南町七番地」とだけ書かれた賀状を送ったそうです。シンプルでかっこいいと思いませんか。

 文字面を見ると、漢字ばかりでは硬い印象を与えがちです。そんなときは、ひらがなで「あけましておめでとうございます」とするのもいいでしょう。漢字を使えば公式でいかめしく、ひらがなを使えば優しい響きになる。これも日本語の特色です。また、ひらがなは漢字よりも画数が少ない分、いろいろな個性あるデザインも可能です。あるいは手書きしてみても個性が光ります。日本語の柔軟性を楽しんでみましょう。

 さて、皆さんは自分宛てに届いた年賀状を、どこから見ますか。何も内容のない儀礼的なものもありますが、その人の年賀状が届くのを楽しみに待っているということもあるでしょう。家族が多ければ個々の近況が書かれているのを見るのも楽しいですし、凝ったデザインや創作性あふれるものであれば、ただただ感心するばかり。私は同業の研究者から届く年賀状に、旧年に上梓した出版物や論考名があると、その人の1年の活躍が展望できてうれしくなります。いずれも、その人からの年賀状でなければ分からないことが書かれていて記憶にも残ります。

 最初に挙げた賀詞から日付までなどは、実はほとんど読まれません。読まれないからといって誤字、脱字があっては困ります(特に宛て名には要注意)が、本当に読みたいのは、その人の1年です。手書きで近況を添えるのが面倒なら、印刷して近況を含めるなどして盛り込みましょう。自分らしさあふれる年賀状にできたら、旧年を振り返る「自分」や新年にかける「自分」が元旦に届けられます。

 メールでも年賀状が送れる時代。業務上の知人などであればそのほうがかえって好都合かもしれませんが、あなた自身を届ける個性あふれる年賀状で、新しい1年を始められたらステキだと思いませんか。

年賀状は本来、お目にかかってあいさつするべきところを略儀にて失礼するという意味のもの。
自分自身が相手に届くものを送りましょう。