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第6回 電話・メール編 絶妙な距離感が大切な敬意

第6回 電話・メール編 絶妙な距離感が大切な敬意

プロフィール
山田敏弘(やまだ・としひろ)岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)
1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。

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(1)ご連絡ください。
(2)ご連絡いただけないでしょうか。
(3)ご連絡いただければ幸いです。

 前回、メールの末尾の「ご連絡ください」を、いただけない表現であるとしましたが(※前回の内容はこちら)、そこには次のような理由があります。

 上の3つの表現を比べてみましょう。言うまでもなく(1)は、この中で最もぞんざいな言い方です。かなり親しい間であれば使えますが、取引相手や面接の書類を送った会社の担当者に対しては不適切な表現です。なぜならば「ください」は命令形だからです。

 一方、(3)は(2)と比べても一層、丁寧な表現です。「御社」と同じような待遇度を持つため、正式さが要求されるメールでも用いることができます。ただし、親しい取引相手には硬すぎるかもしれません。敬語は遠ざけて敬意を表す表現。高すぎる敬意は敬遠にもつながります。結局、どちらでもない(2)のような依頼表現がよいのです。

 日本語は多様な待遇性を表現できる言語です。その特性を十分知って、相手に合わせた様々な表現アイテムを持ちましょう。また、依頼メールでは「よろしくお願いいたします」と添えることも忘れずに。

 さて、ビジネスメールの結びと言えば「署名フォーマット」を用いて、会社や連絡先とともに名前を表示して差出人を明記することもあります。ただし、丁重な私信などでは「山田拝」のように「拝」を添える方もいるでしょう。このような「拝」は字のごとく「おがむこと」ですから、相手を敬う意味を持っています。

 明治の文豪、夏目漱石も、東京大学の先輩であり、京都文科大学(現在の京都大学文学部)の初代学長を務めた狩野亨吉に対し、本名で「金之助拝」と用いたり、親交の深かった正岡子規に対して「漱石拝」などと用いたりしています。ただ、漱石も後輩である芥川龍之介はもちろん、公式な手紙ではほとんど「拝」を用いていません。このことから考えれば、「拝」はビジネスメールなどには用いず、私的に敬愛している人にとどめたほうが良いと言えるでしょう。

 手紙やメールは、相手に合わせる意識を持って書きましょう。

軽い丁寧な表現から高い待遇を表す表現まで、様々な相手に合わせた適切な言葉遣いや結びを用いましょう。