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デキるオトナの日本語

第15回 よい言葉を選んで未来を予告

第15回 よい言葉を選んで未来を予告

 一般企業に勤めるビジネスパーソンは、転職のタイミングとしてボーナスをもらった後に新天地に飛び立つことが多いというデータもあるようですが、学生なども含めて一般的には、やはり3月が1年のひと区切りであり、別れの季節と言えるでしょう。

 そんな別れの場面では、送る側も送られる側もステキな言葉をかけ合って、スッキリと新しい人生の門出を祝いたいものです。

 送られる側としては、もちろん納得ずくでの退社ではない場合もあるでしょう。しかし、そこで愚痴をこぼすなどの行為は控えましょう。自らの新しい人生の出発ぐらい、気持ちよい言葉で始めたいものです。言葉には言霊が宿ります。口にしたその気持ちが、次の人生の方向性を決めます。よい言葉はよりよい人生への案内版。自分で可能な限りよい地図を描きたいと思いませんか。

 気持ちのよい言葉の代表格は、感謝です。どんな会社や職場でも自分にとってプラスになったことがあるはずです。どれだけそりが合わなかった上司や同僚がいても、退職のあいさつに手を休めて耳を傾けてくれているだけでもありがたいことです。そのことを「~してくれた」とありがたく思い、言葉にすることができれば、次にその経験は必ず生かせるものとなるでしょう。

 話の締めくくり方にも注意しましょう。過去のことを話のはじめに持ってくるのは常道ですが、最後まで過去形で話してはいけません。日本語に未来形はありませんが、多くの動詞の「~ます」の形は、未来を表す言葉となります。「これから、第二の人生を歩いていきます」と言っても、「皆さんのご活躍をお祈りします」と言っても、それらは未来を予告します。

 退職のあいさつというと、最後に「ありがとうございました」と付けるひな形をよく目にしますが、私は、その謝辞をむしろ最初に述べて、最後は未来形で終わってほしいと思っています。過去形は、来し方をまとめて述べる言い方。まとめてかかっている段階で後ろ向きです。やはり、これからの人生が大切だというのであれば、「これから趣味の園芸を楽しくやっていきます」と仕事以外のことを述べてもいいですし、「皆さん、遊びに来てください」と言ってもいいのです。未来を語る言葉で締めくくるのが、前向きな人生です。

~オトナのポイント~
別れのあいさつは過去形ばかりにならないよう、
未来を語って明るくまとめましょう。

 さて、送る側はどう言ったらいいのでしょうか。卒業の寄せ書きに先生への恨み辛みを書いた少年時代は昔のこと。デキるオトナであれば、やはりサラリと感謝を述べましょう。もちろん、自分を覚えていてもらいたければ、共通するエピソードを添えて謝辞に結びつけるのもいいでしょう。こちらも、最後は「元気でいてください」や「これからも長い付き合いをお願いします」など、未来を語る言葉を結びたいものです。

 別れはひとつの区切りですが、心持ち次第で決して終わりとはなりません。縁を大切にしてつなげていくためにも、前向きな言葉を選びましょう。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。