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第14回 つかみはスポーツをネタに

第14回 つかみはスポーツをネタに

 昨今の健康ブームに乗り、社員の健康増進を図るためにも、転職先の企業が社員のスポーツへの参加を奨励しているなどということは珍しくないと思います。ビジネスパーソンがスピーチをする機会は朝礼や結婚式に限らないだけに、今回はゴルフをメーンに、スポーツにちなんだ言葉の語源を用いた話題の種のまき方を取り上げます。スポーツが苦手という人も少々、お付き合いください。

 さまざまな調査でビジネスの付き合いを始める理由の第一と言われることの多いゴルフ。一昔前であれば取引先や上司との親睦は週末のゴルフで深めるという文化が根強かった印象を持っている方もいるでしょう。そうであればこそ、プレーの合間にウイットに富んだ話をさりげなくすれば、取引先から一目置かれることは間違いなしです。

 テニスを庭球、サッカーを蹴球というように、ゴルフにも漢字の呼び名があります。辞書にも載っておらず、あまり知られていない言葉ですが、いくつかのゴルフ倶楽部のウエブサイトで「孔球(こうきゅう)」という単語を用いている例が見つかりました。「孔」は、「あな」の意味。ゴルフボールに空いているディンプルの意味ではなく、最終目的である「穴(ホール)」に入れるので、このような名前が付いています。

 私は「穴」でよかったのではないかと思いますが、「穴」は住居の象形文字に由来し、青空の下、緑生い茂るなかでプレーするイメージとはかけ離れる上、仮に「穴球(ケツキュウ)」としたのでは語呂が悪く感じられます。一方の「孔」は「子」と「乚」を組み合わせた文字で、「子育てのための乳の出る孔」が原義と言われています。「孔子」の名にも使われる慈愛に満ちた原義とともに「深い」という意味もあります。付き合いを深めるには有効な手段、それが「孔球」なのです。

 英語の ‘golf’はというと語源がはっきりしません。オランダ語の棒状の器具を指す言葉からとも、スコットランド語方言の平手打ちを表す言葉からとも辞書には記されていますが、定説がないようです。ただgolfとclubは音として似ていますので、こん棒説は広く採られています。

~オトナのポイント~
言葉の語源をひも解けば話の種は尽きません。
日ごろから辞書や参考になりそうな文書をひも解き、
スピーチをはじめプレゼンや面接など、いざというときに発揮
しやすい知力を蓄えましょう。ただし、ひけらかしすぎると嫌みに
なるので謙遜の気持ちも忘れずに

 テニスであれば「40-0」のスコアをフォーティー・ラブと言うように、「愛(ラブ)のあるスポーツ」であるという例え話もできます。バレーボール(排球)は「飛ぶ」が語源なので、飛躍の話に結びつけられます。ワールドカップでの日本代表の活躍で話題となったラグビー(闘球)の語源は、競技の舞台となったイギリス中部の学校名にちなんでいると言われ、故郷を大切にする気持ちにかけることが可能です。

 スポーツに関連した言葉の話は、準備しておける親しみやすい話題の種としてまきやすいと思います。スポーツを通じて交友を深め、言葉で知的好奇心も深めていきましょう。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。