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第13回 人には宇宙人も含まれていた?

第13回 人には宇宙人も含まれていた?

 東京で働く高校時代の友人2人とは、既に30年来の付き合いですが、このうち1人の結婚式ではスピーチもさせてもらいました。言葉の研究者としてかけ出しの頃で、話を練りに練ってスピーチに望んだことを覚えています。

 私たちはテレビドラマ「3年B組金八先生」の初期をよく見ていた世代。同じように中学時代を歩んできました。金八先生といえば……あの名セリフ。「人という字は、支え合ってできているから『人』なんだ」を思いつく方も多いと思いますが、スピーチではそれをひとひねりしてみました。

 皆さんは「人」と「人間」の違いをご存じでしょうか。「ひと」という言葉は記紀・万葉の時代から、ヒトという種を表す場合にも社会的存在を表す言葉としても広く用いられてきました。平安時代には宇宙人を指す場合にも「人」という言葉が使われ、有名な竹取物語では「月の都の人」として用いています。

 一方の「人間」は本来、仏教の言葉で、中国から伝わってきました。今でも中国語で「人間」という言葉は使われていますが、実は意味が違います。中国語の「人間(renjian)」は、「この世」あるいは「世間」という意味で、日本語の「人間」という意味はありません。有名な「人間到る処青山あり」の故事は、「ヒトという生き物は、どこででも死ねる」ということではなく、「この世の中、どこへ行っても生活できる場所がある」という意味なのです。

 日本語では「人間」を「ヒト」と似た意味の言葉として受け入れました。仏教の言葉で威厳ある説教を行うために用いたとも考えられますが、日本人が「ヒトという存在が仏教用語としての『人間(じんかん)』、すなわち世の中で生きていく存在だ」と、自ら解釈して受け入れたと私自身は捉えています。

 日本語には同じ意味を表す和語と漢語があります。「ヒト」のような古来ある和語だけでなく、漢語の「人間」をうまく受け入れ、言葉を豊かにしてきました。ふだんの何気ない言葉にも、そんな歴史が隠されているのです。

 さて、友人の結婚式では同世代であれば皆が知っている金八先生を入口に、言葉の例え話で相手をうまく受け入れることが大切だと結びました。配偶者のみならず、考え方や世代が異なる相手を受け入れるということは、社会人としても度量が問われる重要な要素でもあります。

~オトナのポイント~
結婚式のスピーチはもちろん、面接やプレゼンテーションで
ひとひねりするときには、皆が知っていそうな話をきっかけに、
ふだん使っている言葉の例え話を効果的に交えてまとめてみる

 ちなみに、金八先生が説く「人」という字の語源は一般的なものではありません。「人」という字は「人」を横から見た形をかたどった象形文字だといわれています。人気ドラマなどで見た内容をネタにするときには、事前に辞書で調べて正しいとされる使い方や指し示す意味を理解し、うまく活用して使い分けられると、きっとスマートな人物であると受け入れられることでしょう。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。