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デキるオトナの日本語

第8回 順番を守って、まっすぐ

第8回 順番を守って、まっすぐ

 どんな人にも失敗はあるものです。失敗したとき、どうわびるかが肝心です。私自身、失敗ばかりです。その私の失敗談から3つ、お話ししましょう。
 ローマにある日本の出先機関で働いていた頃のこと。大気汚染が遺跡を溶かす危険を回避するため、ナンバープレートの末尾が偶数と奇数で運転できる日が決まっていた時期がありました。幸い、私の車は該当しない日だったため、その職場の駐車場に置き、街に繰り出しました。ただ悪いことに、公用車がそのせいで出られなくなったのです。
 帰宅時にそのことを知らされ、翌朝すぐに謝ればよかったのですが、仕事の忙しそうな上司の姿を見て、後にしようと思ったのが最大の失敗でした。失敗を認識したら間を置かずにわびる。これが鉄則です。
 今では言葉遣いを指導する立場となった私ですが、昔はよく恩師から指摘されたのが「でも」の使用です。「発表の準備が進んでおらずすみません。でも、忙しくて時間が取れないのです」などという返事は、わびているとは聞こえないと何度も注意されました。
 もちろん、電車が不通となり遅れた際などやむを得ない理由があれば、「電車が遅れて間に合いませんでした。すみません。」と言うこと自体、問題ありません。何も説明なく謝るよりもむしろよいと思いますが、言い方には順番があります。わびた後で「でも」とすれば、後味は言い訳で濁ります。後味スッキリと「すみません」と謝りたいものです。
 私も仕事で、ついつい失念してしまい迷惑をかけていますが、そんな失念に対する督促には、どう謝ったらよいのでしょうか。「すみません」では軽すぎて、「申し訳ありません」という誤った敬語を使うこともできない。そんな時、私が使うのは「ご寛恕(かんじょ)ください」という表現です。

前略
 お知らせいただいた件につき、ご報告申し上げます。
 遅くなりましたこと、ご寛恕いただければ幸いに存じます。
 今後ともよろしくお願いいたします。

草々

 仕事が多くなるとつい忘れるということも頻度を増してきます。簡単でもきちんとわびる言葉を添えることで、次へつながります。
 一方で、そもそもわびることを屈辱だと思っている人もいます。「監督不行き届きでした」や「私の指導が至らないばかりに」などと部下の責任にしている人もいます。しかし、責任転嫁の言葉を並べても、真にわびているように聞こえず、見苦しいばかりです。
 また、「遺憾に思う」などを謝罪の言葉であると勘違いしている人もいますが、「遺憾」は「残念」と同義。英語のI’m sorry.のように、「残念」という気持ちとわびは通じるところがありますが、日本語ではやはり別の表現です。
 デキるオトナとは、すぐに、素直にまっすぐわびる言葉を述べられる人なのです。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。