ビジネスパーソンのキャリアアップ・転職について考えるニュース・コラムサイト

デキるオトナの日本語

第7回 ときにはインパクト重視で

第7回 ときにはインパクト重視で

 社会人ともなると、時節のあいさつをどうするかの迷いはつきもの。お世話になった人に品物を贈るとなれば、相手を想うがゆえに悩みが深まることも、しばしばでしょう。では、いざ送ろうとするとき、どんな言葉を添えているでしょうか。もちろん、品物だけでも心遣いは届きますが、言葉が添えられていると真心が伝わります。ぜひ一筆、添えてみましょう。
 内容は①「新秋の候」など時候の挨拶、②「常日頃よりお世話になり、ありがとうございます」という感謝の言葉、③何をどのようにして送るかなどの内容説明、④「末筆ながら皆様にくれぐれもよろしくお伝えください」などの結語の4点で十分です。
 ①、②、④は、上に示したような定型句を用いることが多いのですが、③は自分の言葉で語りたい部分です。
 歳暮のような季節の挨拶であれば、「暮れのご挨拶に〇〇をお送りします」などとします。「送らせていただきます」や「お送りさせていただきます」のように、へりくだり過ぎなくても「お送りします」という謙譲語で十分に敬意は示されます。なお、この場合、自分の行為ですから「贈る」は似つかわしくありません。言葉の厚化粧はやめてシンプルにすることも、デキるオトナの日本語表現なのです。
 ここに「当地名産の」や「最近、地元で評判の」など、送る理由を添えるとよいでしょう。「昔ご一緒した□□屋の」のように個人的なエピソードがあれば、単なる時候の挨拶でなく、より心の通う贈り物となるでしょう。

拝啓
 残暑が続き、秋の訪れはまだまだ先のようですが、
 ますますお元気でいらっしゃることと存じます。
 常日頃よりお世話になり、ありがとうございます。
 本日は、以前ご一緒した日経屋で最近、話題となっている
 和菓子をお送りします。
 時節柄、より一層のご自愛をお祈りいたしております。
 末筆ながら皆様にくれぐれもよろしくお伝えください。

敬具

 最近では、自らの生きてきた道を振り返って自伝にしたり、節目の同窓会の雰囲気を映像に残したりするなど、シニア層をはじめとして自作の出版物や作品を贈る機会が増えているといいます。そんなときに覚えておきたいのが、「恵存」という言葉です。「お手元に保存していただければ幸いです」との意味で、「謹呈」よりも耳慣れない(見慣れない)分、インパクトがありますし、こんな素敵な言葉があると知ってもらう意味で意外性にもつながります。使い方は謹呈などと同様、相手の名前の前(あるいは後)に添えます(もちろん、食品などなくなってしまうものには使いませんので、ご注意を)。
 さて、このような添え文は、やはり手書きが合います。字の稚拙を気にするよりも、自らの想いを届けるのだと開き直ってスラスラと書いてみましょう。ちなみに私のお勧めはフェルトペン。筆ほど扱いにくくなく、意外とトメ・ハネがしっかり書けるからです。
 日本語の文字、特にひらがなは縦書きのほうが書きやすい文字ですから、縦書きの一筆箋を用意しておくと便利です。たかが一筆箋と言うなかれ。伝統的なものからおしゃれなものまでいろいろな種類がありますので、専門店に赴くだけで、ビジネスでも使えるちょっとした気の利いたものが発見できるかもしれません。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。