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デキるオトナの日本語

第6回 丁寧さは見た目スッキリで

第6回 丁寧さは見た目スッキリで

 メールを見ていると、特定の文末を繰り返し用いていることがよくあります。
 日本語は、述部が文末に来る言語です。つまり、動詞などで文を終わる性質があるため、どうしても文末に似た表現が来てしまいます。例えば、報告書の文がすべて「~しました」で終わっていたり、計画を述べる場合に「~する予定です」を繰り返したりということはないでしょうか。
 丁寧さを表現したい場合に、この日本語の語順ならではの性質は顕著になります。「~いただければありがたく思います」や「~いただけたら幸いです」など、個々には丁寧さを表す表現として使うことを推奨したい表現ですが、繰り返し用いるとなると話は変わってきます。
 特に、丁寧さを表すために繰り返される「~いただければありがたく思います」や「~いただけたら幸いです」は、ちょっとしゃれて「~いただければ幸甚です」や「~幸甚に存じます」としてみても、繰り返されるとクドく感じてしまいます。
 では、どうすればクドさを軽減し、整然と見えるようになるかというと、下記のような書き方が模範になります。

 文末の単調さを回避するため、「~いただけたら幸いです」などの
依頼表現は、1文章で1回までに限定する。

 依頼事項が多数の場合は、「下記の事項につきお願い申し上げます」
などと述べた後、箇条書きにし、最後に「~いただけたら幸いです」で締める。

 依頼表現は、自分の利益のために他者に行動を要求する表現です。そのため、英語をはじめさまざまな言語で、表現技法を駆使して丁寧さを増そうとします。上記したような、日本語の「条件形+幸いです」型の表現も、丁寧さを最大限に表現した書き方のひとつと言えるでしょう。
 しかし、丁寧さを増せば増すほど表現は長くなります。長くなれば省略をしたくもなるもの。このような時に用いられるのが「~いただければと思います」です。ただ、この依頼表現は、丁寧な表現をしたいという気持ちと、簡便に表現したいという欲求が拮抗して生み出された表現です。述べるべき気持ちを表す言葉が省略されていますので、よい表現と受け取られないこともあるでしょう。「~いただければありがたく思います」などと書き換えてはいかがでしょうか。
 「(と)思います」には、「雨が降ります」に対し「降ると思います」のように、確信度を下げて表現する用法と、「報告したいと思います」のように「報告します」を丁寧に書くだけの用法とがあります。「~いただければありがたく思います」は、「ありがたいです」という舌っ足らずな表現を避けているだけで、実質的な意味はありません。一部分を省略したいのであれば、「と思います」を略して、「いただければ幸いです」とスッキリ書くのもお勧めです。
 もちろんメールを書くときだけでなく、電話などで話すときにも同じことが言えますので、ぜひ試してください。

 先月から「クドい」言葉を取り上げてきましたが、6回目ともなるとこの連載こそクドいと言われかねませんので、今回で「クドい」言葉を取り上げるのは終わりにしたいと思います(終わりにします)。次回からは、使うと気持ちのいい「幸せことば」を取り上げます。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。