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第5回 ルールに例外はつきもの?

第5回 ルールに例外はつきもの?

 第3回から「クドい」言葉として、意味に重複のある重言(じゅうげん)を取り上げています。今回は、漢語に含まれる重言を取り上げてみます。
 皆さんは、結婚式などの招待状をもらったことがあるでしょう。そのようなとき、どのように返信していますか。

 敬意は他者から向けられるものであり、自分のことに対しては用いません。そのため、「ご」や「お」は、消して返信するのがマナーです。これをしないと、「あなたもいらっしゃいますか」と問われて「私もいらっしゃいます」と答えているのと同じで、尊大に聞こえてしまいます。しかし、この中で、なぜ「ご芳名」だけ2文字を消さなければならないのでしょうか。
 「芳」は、「評判がよい」という意味を持ち、広辞苑にも「芳名」が「他人の名の尊敬語」と記されています。つまり、「芳」にも敬意が込められているため、消さなければいけないのです。このことはすなわち、「ご芳名」は重言ということであり、正しくは「お名前」か「ご氏名」となるべきなのです。
 重言は、すべてが許されないというわけではなく、「ご芳名」のように社会的に許容されているものも少なからずあります。前回で挙げた「お亡くなりになる」が二重敬語でも許されるように、弔いに関する言葉は敬意が高くなることがあります。日本人の抱く死に対する畏怖の念が、ぼかしたくさせる心理につながっているのかもしれません。
 私の大学でも、職員およびその家族が亡くなると「訃報のお知らせ」がメールで送られてきます。「訃報」の「報」は「知らせ」という意味ですから「訃報」でいいのにと常々思っていましたが、改めて「訃」を調べてみたら、新漢語林に「つげる(つぐ)(告)。人の死んだことを知らせる。また、その知らせ。」とありました。つまり、「訃報」も重言で「訃」だけでよいということになります。
 しかし、漢語には似た意味を並置させる熟語が多く存在します。「疾病」「柔軟」「容貌」「増加」「希薄」「燃焼」――。これらの言葉を重言だからといって避けることができるでしょうか。それは、できません。「しつ」や「ぺい」と言ったのでは意味が取れないからです。たとえ、中国語で四声と呼ばれる声調によって区別される言葉でも、日本語に入れば同じ音になることもしばしばです。漢語は2つの音の組み合わせができてはじめて、漢字が理解でき、そして意味がよくわかるというわけなのです。クドいということは、よりたやすく理解できるということでもあるのですね。
 重言は、話し相手や世間一般に気にされているものを避けることが肝要です。少しずつ気を付けていきましょう。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。