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第4回 ぐっとガマンして知的に

第4回 ぐっとガマンして知的に

 前回は、同じ意味の言葉を重ねる重言(じゅうげん)についてお話ししました。「後から後悔する」や「まず最初に」のような、世間に広く知られた重言は、気を付けている人が多いので避けたほうがよいのですが、いわゆる二重敬語は、あまり気を付けずに用いている人も多いようです。
 代表的な二重敬語は尊敬語に見られます。尊敬語には、やや敬意の高い「お~になる」とそれほど高くない「れる・られる」とがあります。「話す」という動詞を例に取ると、「お話しになる」か「話される」のどちらかでよいのですが、これを組み合わせて「お話しになられる」のようにやってしまいがちです。
 古典でも二重敬語は天皇に対してのみ用いられる特別な語形でした。一般人に敬意は1つでよいのです。ただし、「死ぬ」の尊敬語である「亡くなる」については、慣用的に「お亡くなりになる」が許容されています。人の死という重大事は例外といったところでしょうか。
 謙譲語には、動作の対象となる人を高める謙譲語の一般的な形は「お~する」のみで、尊敬語の「れる・られる」のような簡便な形の助動詞はありません。代わりに、動作者(多くは話し手と一致)を低める丁重語の「いたす」などと組み合わせることは可能です。「お話になられる」は、同じ尊敬語を2つ重ねているので冗長ですが、「お話しいたします」は、謙譲語と丁重語にさらに丁寧語という、異なる機能のものを組み合わせているので正しいというわけです。
 しかし、謙譲語にも二重敬語は見られます。「いたす」と似た機能を持つ「~させてもらいます(いただきます)」が近年、多く用いられるようになりましたが、聞き手に許可をもらう形を採ることで話し手を低めるこの形式も、丁重語の一種と考えられます。そのため、「~いたさせてもらいます(いただきます)」は重言になります。
 それよりも多いのが「お話しさせてもらいます」のような形です。この組み合わせは謙譲語+丁重語であり、本来はルール違反でないのですが、やはり少しクドさを感じます。へりくだりすぎもクドさの一因ですので、適切な敬意を込めて簡便に「お話しいたします」とすることも考えましょう。
 敬語は、使い慣れていないと同じ形式を繰り返し使いたくなるものです。特に謙譲語は、世界でもまれに見る動作対象に向ける敬意を表す形であるため、敬語初心者は、一般的な形である「~させてもらいます(いただきます)」を使いたくなるのです。しかし、そこはぐっとガマンして、スマートな「~いたします」を使えるときには使ってみましょう。言葉もスリムになってスマート(知的)に見えます。
 少し練習しておきましょう。

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 上記の青字で示した言い方で十分に敬意は表されています。重言は「意を尽くす」ことを意識すればするほど使いたくなるもの。「胃を尽くす」食欲と似てガマンするのが大変です。うまくコントロールして、言葉もダイエットを心掛けてみてはいかがでしょうか。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。