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デキるオトナの日本語

第3回 魔法のしかけは3点セット

第3回 魔法のしかけは3点セット

 面接やビジネスでのプレゼンなどでは、話し言葉力が勝負を決します。話し言葉は書き言葉と違い、情報量が豊富な反面、瞬時に消え去っていきます。話し言葉で聞き手に確実に届けるためには、情報の構造化が欠かせません。
 情報の構造化というと難しく聞こえるかもしれませんが、小学生でもやっていることです。「まず」「次に」「最後に」という接続表現は、瞬時に消えていってしまう情報を整理し、棚に並べる魔法の言葉なのです。
 分かりやすく、経営コンサルタントの例として挙げてみましょう。

貴店の売り上げを伸ばすためには、次の3点が重要です。
まず、多くの人に知ってもらうこと。
次に、その客の来店頻度を上げること。
最後に、飽きられない新メニューを開発することです。

 ポイントは、考えをまとめて話すことなのですが、なかなかとっさの質問にまとまった回答をするのは難しいことです。そんなときは、大風呂敷を広げたって構いません。最初に、「3点あります」と言いながら時間を稼いで、その間に考えるのです。こうすると、「宣伝」「来店頻度アップ」「新メニュー開発」といった具合に、重要な3点が頭に浮かんできます。たとえバランス良く3点を挙げられなくても構いません。「この人は、論理的な話ができる人だ」と思わせることが大切なのです。
 さて、このとき「まず最初に」という人がいます。同じ意味の言葉を繰り返すことは、ときにクドさを感じさせます。強めたいという気持ちはわかりますが、面接などではマイナスポイントになることがありますので注意したほうがよいでしょう。
 同じ意味の言葉を繰り返す重言(じゅうげん)は、話し言葉でも書き言葉でも見られます。「一番最初」は、「最」に「いちばん」の意味がありますから、重複があります。「従来から」にも、「従来」の「従」に「より」の意味がありますので、同じ意味の「から」を続けず、「従来」とします。ほかにも、「過半数を超える」「決着が付く」のような連語にも重複は見られます。 ただ、「歌を歌う」が許容されることを考えれば、どこからが許されない重複なのか、一概に線引きをするのは難しく、「従来から」などを認める立場もあります。「後から後悔する」のように明らかな漢字の重複がある場合から、少しずつ気を付けて重言を減らすようにしていきましょう。
 それよりも気を付けたいのが、内容の重複です。同じ内容を繰り返して言えば、聞き手からは「クドいなあ」と思われますが、これをやっている人は意外と多いものです。このような人の話には構造がありません。「宣伝」「来店頻度アップ」「新メニュー開発」のようにキーワードで整理して提示すれば、何を言って何を言っていないかが、すぐにわかります。
 キーワードが「宣伝」「接客」「新メニュー」のようにバランスの取れたものであると、内容的な重複も避けられます。実は、上掲の経営コンサルタントの言葉は、あまりバランスがよくありません。「来店頻度を上げること」が「多くの人に知ってもらうこと」と内容的に近く、反対に「接客」という観点が欠けているからです。重複とまではいかないものの、「親しみの持てる接客を心掛ける」ことなど、「客」「従業員」「メニュー」の3点でまとめると、より論理的に感じられるようになるというわけです。
 バランスの取れたキーワードで内容の重複を避け、さらに重言を意識して避けること。これがデキるオトナのスッキリ言葉なのです。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。