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デキるオトナの日本語

第2回 言語コードを使い分ける

第2回 言語コードを使い分ける

 面接の自己紹介やビジネスでプレゼンを行うときと、気の置けない仲間と話すときでは、違う言語で話しましょう。
 もちろん、どこの国の言葉で話すかということではありません。私たちは普段、公的な場面で使う日本語と気安い場面(私的な場面)で使う日本語を、無意識に切り換えて使っています。同じ日本語ですが、この2つを切り換えて使うことが大切だという意味なのです。
 わかりやすいのが、方言と共通語の2言語を併用する人です。気安い場面では方言を多く用い、公的な場面では共通語を意識しながら話すというように、同じ日本語でも方言と共通語を切り換えて話をしています。
この方言と共通語それぞれが、言語コードと呼ばれるひとつの体系を持った言語です。このコードを使い分けるのが、デキるオトナの日本語戦略と言えるでしょう。
 方言を用いるのは仲間内だけとは限りません。ビジネスであれば初対面で育った町などの話から切り出すとき、ボランティアであれば介護などの仕事でお年寄りと話すときなど、時に方言は有効なツールとなります。方言は心的距離をぐっと縮めますから、共通語を使うよりも親密な話ができることもあります。
 東京生まれ、東京育ちという人などは特に、方言を使わないからわからないという方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、公私で言葉を使い分けることはあります。公私それぞれの言葉が体系を持っていることを意識化し、切り替えをコントロールできるようになると、言葉は有効な戦力となります。
 公の言葉とは次のようなものです。

音声:明瞭である。時にガ行の鼻濁音を使うなど伝統的である。
語彙:高級な語彙が多い。特に漢語語彙を多用する。
文法:名詞修飾構造や複文など複雑な構造を用いる。
   また活用においてもより伝統的な語形を用いる。

 私的な場合は、断片的に単語を並べてブツブツつぶやいていても分かってもらえるかもしれませんが、公的な場面では上記のような特徴を持った言葉を使ったほうが、話し手自身を優れた言語話者であると周囲が認識してくれます。
 前回取り上げた「さ付き言葉(5月言葉)」は、話すことに不慣れな人が正式な文法規則に違反して使うものですから、公的な場面で使うにはふさわしくありません。では、「食べれる」や「見れる」のような「ら抜き言葉」はどうでしょうか。すでに数多くの人が用いている日本語ですから、「間違い」と糾弾することはできません。実際に仲間内であれば「ら抜きことば」のほうが自然であり、打ち解けやすいということもあります。
 しかし、面接やビジネスではどうでしょうか。コミュニケーションの入り口は、やはり言葉です。公的な場面では、ら抜きでない言葉をしっかり使うことで、場面をわきまえて言葉を使い分けることができる人だと思ってもらえるでしょう。
 言語コードを使い分け、ことばを戦略的に用いましょう。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。