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デキるオトナの日本語

第1回 5月言葉にご用心!?

第1回 5月言葉にご用心!?

社会人の基本としてのみならず、常に心がけたいのが正しい日本語を使った美しい言葉遣いです。転職活動で言えば面接、ビジネスで言えば電話応対や商談など、言葉遣いひとつで相手に与える印象や評価を左右しかねません。正しいと思っている使い方が間違っていないかどうか改めて見直し、言葉遣いからデキるオトナを体現してください。

 面接の自己紹介やビジネスでプレゼンを行うときなどに、いわゆる「『さ』入れ言葉」や「『さ』付き言葉」を多用していませんか。丁寧に言いまわしているつもりであっても、誤用に気付かずに相手に違和感や不快感を与えていることが少なくないのです。
 面接官に自己紹介をお願いしますと促されて、「では、自己紹介に移らさせていただきます」などと始めようものなら、敬語の初心者と思われても仕方がありません。文法として正しく「移らせていただきます」とし、言葉遣いの基本からデキる印象を存分に示しましょう。

 「移らさせて」のような余計に「さ」の入った言葉を「さ入れ言葉」や「さ付き言葉」といいます。もう5月も終わりに近づきましたが、ここは「さ付き言葉」と呼んでおきましょう。簡単にルールを説明すれば、「起きる」や「寝る」のような一段動詞(上一段でも下一段でも基本は同じ)は、「起きさせて」や「寝させて」のように「さ」が入りますが、五段動詞には(サ行を除き)入らないというのが原則です。しかし、人間は同じルールを適用したがるもの。全部に「さ」を入れて、五段動詞の「移る」も「移らさせて」としてしまうのです。
 習うより慣れろです。正しい形の練習を、ちょっとしてみましょう。

書く(五段)    → 書かせていただきます
立つ(五段)    → 立たせていただきます
読み上げる(一段) → 読み上げさせていただきます
説明する(サ変)  → 説明させていただきます

 どうですか。ちょっとした気付きであっても、少なからず慣れておけば面接の自己紹介でも、正しい語形が口をついて出てきます。

 この「~(さ)せていただきます」は、1980年代に関西方言から共通語に入ったものと言われています。商人の街、大阪で使われてきた、許可を求めるかのように言う丁寧な表現ですので、使いすぎるとかえって慇懃無礼と感じることもあります。
 たとえば、「説明させていただきます」は、「ご説明します」と謙譲語を用いれば、それだけで敬意は十分です。語尾を「いたします」として「ご説明いたします」ともなれば、誰も悪く思いません。面接や会議の始まりも「始めさせていただきます」と、誰に許可をもらうわけでもないのに使っていることがありますが、端的に「自己紹介を始めます」「会議を始めます」と切り出すほうがすっきりします。

 敬語は言葉のお化粧とも言えます。派手すぎてもいけません。ほどほどの言葉遣いを意識して面接やプレゼンに臨みましょう。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。現在、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に電話で生出演している。