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第25回<後編>株式会社タベルモ 佐々木俊弥氏

第25回<後編>株式会社タベルモ 佐々木俊弥氏
<はじめに>

前編では、タベルモ代表の佐々木俊弥氏の生い立ちから、研究者時代を経て藻の食品化に挑むフードテックベンチャー、タベルモの設立に至るまでの経緯について聞いた。後編では、社長就任後に感じた経営の難しさや、タベルモの展望などについて聞いていく。

17億円の資金調達を実現。新農場設立でスピルリナ量産に弾み

―― 以前からベンチャービジネスに関心があったとはいえ、入社3年目で子会社の社長に就任するのは勇気がいる選択だったのでは?

佐々木 そうですね。経営者ともなればさまざまな決断をしなければなりませんし、見るべき領域も多岐にわたります。私自身は研究経験が長いので、どうしても開発プロジェクトのディテールに吸い寄せられてしまいがちです。ちとせグループ代表の藤田朋宏に「社長にならないか」と打診されたときは、やれると言い切れるほど自信はありませんでした。

―― では、しばらく悩んだのですか?

佐々木 いいえ、「やります」と即答しました。返答の速さに打診したほうの藤田が驚いたほどです。

―― なぜ、即答を?

佐々木 やったことがない以上、やれると断言することはできません。ただ、環境負荷が低く、生産効率の高い藻を利用して「タンパク質危機」を克服するというミッションは非常に魅力的でした。それに、こうしたチャンスは度々あるものではありません。だから、「やります」と即答しました。打席に立たないと何も始まりませんからね。

―― 社長に就任した感想はいかがでしたか?

佐々木 研究やプロジェクトマネジメントの経験はありましたが、企業経営や製品マーケティングなどについての経験はありません。だからといって、知らないことを知らないまま放置していては適切な判断は下せないので、常に焦りを感じていました。いまにして思えば気負い過ぎていたのだと思います。

―― それが変化したのはいつのことですか?

佐々木 完全に気負いがなくなったわけではないのですが、事業のフェーズが急速に上がっていくなか、周囲を巻き込み、任せ、託すことの重要性がよく理解できるようになった気がします。

―― 2018年5月、三菱商事や産業革新機構から17億円の資金を調達されましたね。

佐々木 その資金を使って現在、東南アジアのブルネイに現地法人を設立し、1ヘクタールのスピルリナ農場を建設中です。ゆくゆくは1000ヘクタール程度まで拡張し、大豆に並ぶようなコスト競争力をつけられればと思っています。

―― タンパク質危機を乗り切るために、今後の課題はどこにあると思いますか?

佐々木 アメリカの同業であるインポッシブル・フーズやビヨンド・ミートのような、植物原料による代替肉の開発に取り組むフードテックベンチャーに勝る製品を開発するのが当面の課題です。

―― 今後の目標は?

佐々木 いまは食品に添加する健康食品として製品を提供していますが、究極の目標はスピルリナを原料に、肉の味や食感と遜色がない食品を提供することにあります。そのためには、技術開発と並行して、藻を食べるという文化をつくっていくことも重要です。製品の研究開発や生産体制の確立だけでなく、マーケティングやPRにも力を入れていかねばと思っています。

―― 最後に、転職という人生の岐路に立つ読者にメッセージをお願いします。

佐々木 新しいチャレンジを前に、この先にどのようなリスクが待ち構えているかわからず、二の足を踏んでしまう人も多いと思います。でも、そのリスクを丁寧に紐解いていけば、無用なリスクを回避することもできますし、リスクをとった上でどのように対処すればいいか解決策は見えてきます。
ひとつ言えるのは、あなたに仕事を任せようとしている人は、おそらくあらかじめ起こりうるリスクを想定した上で、あなたならクリアできると踏んでいるはずだということ。大きなリスクだと感じていたことが、実際にやってみたら、それほどでもなかったということはよくあることです。もし本気でやりたいと思えることであれば、思い切って飛び込んでみるのも悪くない選択だと思います。


<取材後記>

人口減少が叫ばれる日本では実感があまり湧かないが、世界人口の急速な増加は国際情勢を左右する喫緊の課題として懸念されている。タンパク質危機もそのひとつだ。タベルモはスピルリナを肉や魚、大豆に匹敵するタンパク源に育てようと、いま技術開発を急いでいる。スピルリナを原料とした「肉」が私たちの食卓に並ぶ日がくるのも、そう遠い未来ではないのかもしれない。


〜前編はこちら〜

株式会社タベルモ

佐々木俊弥氏

1985年生まれ。新潟大学理学部を経て、奈良先端科学技術大学院大学に進学。応用微生物学を学ぶ。博士課程修了。博士(バイオサイエンス)取得。2012年、ちとせ研究所(旧ネオ・モルガン研究所)に入社。微細藻類の一種、ボツリオコッカスから炭化水素を抽出し、石油に代わるエネルギーを開発するプロジェクトに従事。14年からは、微細藻類のなかでも、タンパク質を豊富に含むスピルリナを使った食品開発プロジェクトに携わる。14年7月、ちとせグループ内へのタベルモ設立とともに代表に就任。