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イノベーションを興す次世代リーダーたちの視点

第23回<後編>株式会社no new folk studio CEO/Founder 菊川裕也氏

第23回<後編>株式会社no new folk studio CEO/Founder 菊川裕也氏

前編はスマートフットウェア「Orphe」(オルフェ)を開発するに至った経緯やものづくりへの思いをno new folk studioのCEO、菊川裕也氏に語ってもらった。後編では引き続き、起業後の取り組みや今後の展望、仕事に対する考え方などについて聞いていく。

思いも寄らない分野での有効利用にも期待

―― 2014年10月に起業されました。周囲の反応はいかがでしたか?

菊川 留学先のスペインから帰国後、プロトタイプを持って投資家を回ってみたところ、とても反応が良く、会社を設立することができました。投資家の間でIoT(モノのインターネット)のスタートアップへの関心が高かったことも、投資への後押しになったと思います。その後Orpheのデモ動画を制作し、クラウドファンディングで開発資金を調達しました。

――この間に意識的に取り組まれたことはありますか?

菊川 すでに動作するプロトタイプやデモ動画はあるので、国内外のイベントに出てはプレゼンテーションに励んだおかげで、メディアに採り上げられる機会が増えました。著名なダンサーの菅原小春さんがOrpheを履き、踊っていただいたテレビCMが放映されたのも正式発売前のことです。

――プロトタイプとはいえ、実物があるのは強みですね。

菊川 まずはOrpheの存在を知っていただかないことには、どうにもなりません。実演はもちろん、写真や動画には大きな影響力、波及力があります。その反響の大きさで、Orpheが世間に求められることを実感することができました。

―― 生産段階ではどのような苦労がありましたか?

菊川 大変だったことはたくさんありますが、一番は製造してくれる工場を見つけて生産することでした。まずOrpheには動作をセンシングして光らせる機能や通信機能があるため、ハードウェアとしては複雑な構造を持っています。Orpheはいうなれば靴型のコンピューターです。一般的な靴を生産するラインではつくることが難しく、一から生産プロセスを設計する必要がありました。その上、私たちの会社はまだ知名度が低く、一度に発注できる足数も限られています。こうした状況の中で、品質の高い靴をつくる工場を探すのは至難の業でした。最終的にOrpheの生産は中国の工場にお任せすることができましたが、ようやく関心を持ってくれる工場が見つかったのに、試作段階で製造を諦めたこともありました。


―― 製品化はプロトタイプの制作とはまた違う次元の苦労があるといいます。

菊川 会社のメンバーと一緒にものをつくのは楽しいですし、苦労を苦労とも感じないのですが、量産、販売となると外部の方々とのお付き合いが大切になります。異業種とのコラボレーションもそうですが、靴をスマートにするという、これまで誰も手がけてこなかった手間のかかるものづくりをやり通すには、関わりのある方々と共通の目標を見据え、モチベーション高く取り組まなければなりません。良好な人間関係を築くところから始めなければならなかったので、最初はとても苦労しました。

―― これからも靴のスマート化を推進されていくのでしょうか?

菊川 脳に直接、インターネットがつながる時代がくるまでは、人間と情報世界の間にインターフェースやインタラクションは欠かせません。その意味で日常的に身に付ける靴が果たす役割は重要だと思っています。

―― 今後の展開を教えてください。

菊川 開発当初から深い関わりがあるダンスやファッション分野だけでなく、スポーツにおけるフォームの検証やリハビリへの応用などに使いたいという声をたくさん頂戴しています。発売直後からOrphe対応アプリケーションを開発できるSDK(ソフトウェア開発キット)を無償配布しているので、今後も思いも寄らない分野で有効利用してもらえたらうれしいです。


―― Orpheによってどんな社会を実現したいですか?

菊川 私は常々、便利さには人間にとってあらがえない魅力がある分、ある種の暴力性が潜んでいるように感じています。ですから私たちは声高に便利さをうたうのではなく、人々の可能性をエンパワーメントする方向、人間に寄り添うような形で技術を生かしていきたい。Orpheを履いて楽しさを実感していたら、自然と健康になるというような環境がつくれたらいいですね。

―― 最後に転職を検討している読者にメッセージをお願いします。

菊川 私にとって起業は、好きなことで生きていくための限られた選択肢のひとつでした。転職や起業は目的ではなく、あくまで目標を達成するための手段にすぎません。とくにやりたいことがないまま、性急に行動するのは危険だと思います。最適な手段は達成したい目標によって変わるはずです。自分の気持ちをきちんと整理した上で動かれることをお勧めします。

<取材後記>

菊川氏が率いるno new folk studioは、2018年から三菱UFJ信託銀行が構想する情報信託プラットフォームの実証実験にアシックスと共同で参加。歩行や走行など人間の動きにまつわるデータの有効利用とともに、公平で安全なデータ流通の可能性を探っているという。履くことができる電子楽器として始まったスマートフットウェア「Orphe」。今後、思いも寄らない場面で活用されている姿が見られるはずだ。


株式会社no new folk studio CEO/Founder

菊川 裕也氏

1985年、鳥取県生まれ。一橋大学経営学部を卒業後、首都大学東京大学院芸術工学研究科に進学。電子楽器のインターフェース研究に取り組む過程で、靴のスマート化に着目。2014年10月にno new folk studioを設立し、16年9月、LEDやモーションセンサーを搭載したスマートフットウェア「Orphe」(オルフェ)の一般販売を開始。ダンスやスポーツ、ヘルスケアなど分野を超えたコラボレーションが話題に。アジアデジタルアート大賞優秀賞、Music Hack Day Barcelona – Sonar賞など受賞歴多数。