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第23回<前編>株式会社no new folk studio CEO/Founder 菊川裕也氏

第23回<前編>株式会社no new folk studio CEO/Founder 菊川裕也氏
<はじめに>

家電や自動車、オフィス機器など、生活に身近な製品がネットワーク接続されるようになって久しい。近年では時計型や眼鏡型、指輪型など、さまざまな形状のウェラブルデバイス(身に付けられる情報機器)も普及し始めている。今回は靴のスマート化に取り組む菊川裕也氏に、スマートフットウェア「Orphe」(オルフェ)開発の経緯と今後の展望などについて聞く。

電子楽器から日常を表現するフットウェアへ

―― 首都大学東京大学院ではどのような研究をされていたのですか?

菊川 首都大学東京大学院の芸術工学研究科では、当時助教だった馬場哲晃先生の下で、インターフェースデザインやインタラクションデザインを学びました。同じ研究室にいた金井隆晴(no new folk studio共同創業者)らと、電磁石で浮上する16個の光る円柱を操作して演奏する「Poco Poco」という電子楽器を開発する活動に取り組んでいた時期もあります。もしPoco Pocoが商業的に成立する見込みが立てば、電子楽器メーカーとして創業していたかもしれません。

―― 電子楽器メーカーになる可能性もあったんですね。

菊川 はい。ただ制作途中で量産は難しいと判断しました。内部の機構がかなり複雑でしたから、もし世に出せたとしても高額にならざるを得ません。ユニークな動きや光を放つ電子楽器に何十万円も出そうという人は少ないでしょう。それでビジネスにするのは諦めました。

―― いつから起業を念頭に置くようになったのですか?

菊川 一橋大学の商学部に入ったのは「いつか起業したい」という漠然とした気持ちがあったからなのですが、一か八かというスリリングな面がある起業に関心はあっても、経営学をしっかり学び、企業の幹部になりたいわけではなかったので、あまり面白いとは思えませんでした。それで当時盛り上がりを見せ始めていたメーカーズムーブメントの流れを見て、ものづくりの世界を体験しようと首都大学東京大学院の芸術工学研究科に進学を決めたのです。この頃から、起業を自分の好きなことで生きていくための数少ない選択肢だと思うようになりました。

―― 電子楽器づくりに興味を持ったのはなぜですか?

菊川 大学在学中にバンド活動に打ち込んでいたことと、研究室の馬場先生が研究の傍ら「フレクトリック・ドラムス」という、人の身体に触れることでドラム音が出る電子楽器を販売していたのを見て、影響を受けたことが大きかったですね。

―― 起業以外の選択肢は考えられなかったのでしょうか?

菊川 なかったですね。好きな音楽を仕事にしたいという思いはありましたが、商業的な音楽にはまったく興味が持てず、バンド活動もあまり芳しくありませんでした。将来を悲観して落ち込むこともあったのですが、電子楽器なら好きな音楽を仕事にしたい思いと世の中との折り合いがつく、良い落としどころだと感じ、起業を目標に置いて研究するようになりました。

―― 電子楽器から靴のスマート化へと研究テーマが変化した理由を教えてください。

菊川 大学に在学中、ウィスキーメーカーのウェブCMプロジェクトにエンジニアとして参加したことで、電子楽器への意識が変わりました。そのウェブCMには傾けたり回したりすると、その動作をセンシングして店内に流れる映像を変化させたり、音を鳴らしたりするウィスキーグラスが登場します。楽器がグラスに置き換わるだけで、楽器演奏につきものの楽譜や練習、説明もなしに音楽を奏でられるのを見て、とても面白く感じたのです。それ以来、人間がテクノロジーに歩み寄るのではなく、人の行為を読み取って音楽を生み出せるなら、楽器らしい形でなくてもいいのではと考えるようになりました。

―― それで靴をスマートにすることを思いついたわけですね。

菊川 はい。靴を履かない人は少ないですし、タップダンスやフラメンコなどとも相性がいいので、私が得意とする光、音、動きが伴うメディアと日常の接点にはもってこいだと思いました。靴のソールを利用すれば大きめの回路も入りますし、他の場所に比べて身に付けることで生まれる違和感も少ない。それで靴を選んだわけです。

―― 留学先のスペインで披露されたプロトタイプの評判が良かったようですね。

菊川 当時、半年ほど留学していたスペインのバルセロナで開かれた「Music Hack Day Barcelona」という展示会で、既製の靴にLEDと運動センサー、音声モジュールを貼り付けたプロトタイプを履いて演奏を披露したところ、運良く地元のテレビに採り上げていただき、スペイン産業省賞やSonar賞、XthSense賞という3つの賞をいただきましました。実用化への自信を深めることができたので、帰国後、会社を興すことにしたのです。


〜後編につづく〜

株式会社no new folk studio CEO/Founder

菊川 裕也氏

1985年、鳥取県生まれ。一橋大学経営学部を卒業後、首都大学東京大学院芸術工学研究科に進学。電子楽器のインターフェース研究に取り組む過程で、靴のスマート化に着目。2014年10月にno new folk studioを設立し、16年9月、LEDやモーションセンサーを搭載したスマートフットウェア「Orphe」(オルフェ)の一般販売を開始。ダンスやスポーツ、ヘルスケアなど分野を超えたコラボレーションが話題に。アジアデジタルアート大賞優秀賞、Music Hack Day Barcelona – Sonar賞など受賞歴多数。