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第22回<後編>株式会社Moly 代表取締役CEO 河合成樹氏

第22回<後編>株式会社Moly 代表取締役CEO 河合成樹氏

前編は防犯メディアと防犯アプリを提供する株式会社Molyの河合成樹氏に、これまでのキャリアと起業に至る経緯を聞いた。後編では防犯サービスに取り組む意義や今後の展望などについて聞く。

娘の誕生をきっかけに能動的防犯ビジネスに参入

―― 前編では、娘さんの誕生が閉塞していた状況を打開するきっかけになったと聞きました。具体的には何が起こったのでしょうか?

河合 娘が生まれ、この子を守るためにできることは何かと考えたとき、防犯をキーワードに何かできるのではないかと思い立ちました。もしも娘がいなければ、現在の防犯サービスは生まれなかったかもしれません。

――防犯ビジネスにもいろいろあります。どのようなサービスを目指したのでしょうか?

河合 犯罪に遭わないように、危険を察知したらスマートフォンの警報が鳴るようなサービスを検討していた時期もありました。結果的にそちらの方向に進まなかったのは、当時参加していた起業家プログラムのメンターや起業仲間と話し合ううちに、そもそも防犯意識を高めるような情報が世間に流通していないことのほうが根深い問題だと気づいたからです。そこで女性に向けて、知識の啓蒙や行動変容を促す防犯メディアや防犯アプリをつくる決心を固めました。

――子ども向けのサービスではなく女性向けなのはなぜでしょう?

河合 警察庁の資料によると、子どもが街頭犯罪に遭いやすい時間帯は下校時間と重なる午後4時台がピークで、女性の場合は午後10時。このピーク時に女性が犯罪に遭う数は、子どもが犯罪に遭う数の約2倍に達し、その危険性は深夜午前2時まで続きます。しかも独自にアンケートをとってみたところ、58%の女性が路上で何らかの危険な目に遭ったことがあることもわかりました。それで女性をターゲットにすべきだと判断したわけです。

―― サービス開発に当たって苦労されたたことは?

河合 いま私たちが手がけている「Moly」は、警察や自治体の防犯情報やユーザーの投稿をスマートフォンの位置情報と連動させ、プッシュ通知でお知らせする防犯アプリです。いまでこそ警察や自治体のみなさんとは仲良くさせていただいていますが、開発当初は趣旨を理解していただき、情報を出していただくだけでもひと苦労でした。さらに出していただいたデータも、所轄警察署ごとに情報の管理方法やデータの保存方法、フォーマットが異なるので、対応するのは容易ではありません。これについては、いまも手間とコストをかけてクリーニングしている状況です。


―― ビジネスの手応えはいかがですか?

河合 2017年1月に防犯メディア「Moly.jp」、6月に防犯アプリ「Moly」をリリースしました。防犯というと、みなさんがよくイメージされるのはホームセキュリティーシステムだと思いますが、それでも導入世帯は全世帯のわずか3%程度。日本における防犯業界はこれからの市場といえます。社会への啓蒙と警察や自治体との連携を深めていかなければならないと感じています。

―― 今後、どのような展開を考えていますか?

河合 アプリの強化策としては、女性の行動をよりよい方向に促すようなアドバイスやサジェストを通知する機能を付け加えたり、メディアにおいては防犯ノウハウや被害者の声を発信したりするのに加え、加害者インタビューの掲載を増やすなど、多面的な情報発信に取り組んでいくつもりです。また防犯の啓蒙につながるなら、メディア出演やイベントへの出展、登壇などにも積極的に取り組んでいこうと思っています。

―― これからどんな社会を実現したいですか?

河合 私たちの事業目標は「大切な人を犯罪被害者にも加害者にもしない」こと。つまり目指しているのは受動的な防犯ではなく、能動的な防犯サービスの実現です。将来的には、サービスを通じて収集したデータを基に犯罪発生の予測のモデルをつくり、警察や自治体などに提供するなどして安全な街づくりに貢献したり、他社の自動運転技術と組み合わせた安全な送迎サービスなどを生み出せたりしたら素晴らしいと思っています。現在は社会インフラを支える企業や団体、国立の研究機関である産業技術総合研究所などの協力も得ながら、データと知見を蓄えているところです。


―― 最後に転職という人生の節目に差しかかっている読者にメッセージをお願いします。

河合 もし自分のやりたいことが見つかったら、すぐに周囲の人に伝えるべきだと思います。ひとりで考えているときには見えなかったことが見えたり、自分を奮い立たせるきっかけになったりするからです。人や情報は意思ある人のもとに集まってきます。自分の思いに共感してくれる人の熱量が加われば、細い糸が寄り合わされて太いひもになるように、挑戦への思いは強くなっていくはず。やりたいことがあるなら前に進むことを恐れず、どんどんチャレンジすべきだと思います。

<取材後記>

河合氏が防犯ビジネスに取り組むきっかけを与えた娘さんは、まだ4歳になったばかり(取材当時)。彼女が年ごろの女性へと成長し社会で活躍するまでには、多くの企業や団体と連携して、より広範な能動的防犯ビジネスを実現させたいと河合氏はいう。「愛娘の成長をひとつの物差しとしながら事業の成長を構想し、実現に向かって取り組めるのは、起業家として幸せなことだと感じます」(河合氏)


株式会社Moly 代表取締役CEO

河合 成樹氏

1977年生まれ。大学卒業後、石川県の広告代理店にグラフィックデザイナーとして入社。広告営業を行う傍ら、ウェブデザインやフリーペーパーの立ち上げなどに携わる。その後、東京へ移住。フリーランスのウェブサイトプロデュース業などを経て、携帯電話会社のポータルサイト運営、人工知能ベンチャーの立ち上げ、携帯コンテンツ制作会社の執行役員などを経験。2013年10月にMolyの前身となるCoorde7を創業。2017年から防犯サービスに事業を絞り、メディア運営やアプリ開発に取り組んでいる。