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イノベーションを興す次世代リーダーたちの視点

第21回<前編>株式会社オトングラス 代表取締役 島影 圭佑氏

第21回<前編>株式会社オトングラス 代表取締役 島影 圭佑氏
<はじめに>

「OTON GLASS」(オトングラス)は、視覚機能や脳機能の問題により、日常にあふれる文字情報にアクセスできない人たちのために開発された眼鏡型デバイスだ。眼鏡の眉間部分に埋め込まれたカメラで撮影した文字を音声に変換することで、目が見えなくても瞬時に文字の内容を理解できるようになる。このユニークなデバイスを開発したのは株式会社オトングラス代表の島影圭佑氏。同氏にOTON GLASS開発の経緯と今後の展望を聞く。

社会を変えるものづくりを目指して

―― ものづくりへの関心はいつから持っていたのでしょうか?

島影 幼い頃から絵を描いたり、何かを作ったりすることが大好きでした。理数系の科目が得意だったこともあって、高校卒業後は工業製品のデザインが学べる大学に進学。プロダクトデザイナーを目指したのは、社会や人々の生活を一変させるような製品づくりに携わりたかったからです。

―― その頃から、社会との関わりを意識されていたのですね。

島影 大学進学に当たって自分が何をしたいのか真剣に考えた結果、社会を変えるような新しいプロダクトを開発したいという結論にたどり着きました。どうしても自分の将来を突き詰めて考えなければならない事情があったのです。

―― どういうことでしょうか?

島影 高校は進学校に通っていたものの、経済的に余裕がある家庭ではなかったため、両親から「大学には進学しなくていい」といわれていたからです。両親に進学を認めてもらうには、大学で何を学び、それを将来どんな形で生かしたいのか、きちんと説明しなければなりませんでした。それで高校生なりに真剣に考え、プロダクトデザイナーになりたい理由と目指す目標を明確にしました。進学を許してくれた両親には、いまでも感謝しかありません。

―― 大学ではどのような活動を?

島影 首都大学東京ではプロダクトデザインを学ぶ傍ら、大手電機メーカーのデザインセンターでインターンを経験。その後に進学した情報科学芸術大学院大学[IAMAS]では、企業との共同研究などでHCI(Human Computer Interaction)の観点からの製品開発にも取り組みました。ちなみに株式会社オトングラスは大学院在学中に創業した会社です。

―― 大手電機メーカーでインターンを経験されていたにも関わらず、就職の道を選びませんでした。なぜだったのでしょうか?

島影 インターンを経験してわかったことがあります。それはメーカーにおけるプロダクトデザインの役割は、製品のモデルチェンジやスタイリングにまつわる領域に限られており、プロダクトデザイナー自身が社会の課題に向き合い、世界を変えるようなものづくりを主導するのはまれであるということです。もちろん家電のモデルチェンジも重要な仕事です。しかし自分が理想とするものづくりではなかったので、しばらくはモヤモヤとした感覚がぬぐえずにいました。そんなとき、父が脳梗塞で倒れてしまったのです。

―― 父親の病によって状況はどのように変化しましたか?

島影 父の病に触れてまず感じたのは、いま目の前でリハビリに奮闘している父の助けになるプロダクトをつくることが、自分が目指す理想的なものづくりの一歩になるのではないかということでした。そのときの気持ちがOTON GLASSを開発する直接的なきっかけになっています。

―― すぐに眼鏡型デバイスをつくろうということになったのでしょうか?

島影 いいえ。形状のイメージが眼鏡型デバイスに収束したのは、父の診察に同行したときのことです。いまは完治しましたが、当時の父は脳梗塞をきっかけに失読症を発症していたため、病院で手渡されたアンケートに何が書いてあるか読み取ることができませんでした。父が医師にアンケート項目を指差し、医師が読み上げ、父が質問に答えるという一連のやり取りを目の当たりにしたとき、カメラで読み取った文字を音声に変換し、ささやいてくれるデバイスがあれば、介助者なしに文字情報を把握できるのではないかと思い立ちました。眼鏡型ならカメラや音声出力装置を合理的に実装できます。それでこの形を採用しました。

―― とはいえ、プロダクトデザイナーだけではものづくりはできません。どのように開発を進められたのでしょうか?

島影 私には技術的なバックグラウンドがないので、エンジニアやデザイナーの仲間を集めチームをつくり、プロトタイプの開発に取り組みました。コンピューターに関しては拡張性の高いマイコンボードであるRaspberry Pi、カメラやバッテリーはRaspberry Piの生態系にあるものを選び、文字認識はグーグルのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)、音声合成はアマゾンのAPIを採用し、既存の技術を組み合わせて体験できるものをつくることを最優先にしました。そこから実際に視覚障がい者の方に使っていただき、彼らにとってやさしいインターフェースとは何かを追求しながら現在も改善を続けています。

―― 大学時代から大学院を経て、現在も継続してOTON GLASSの開発を続けています。プロジェクトをマネジメントするうえで、大切にしていることはありますか?

島影 OTON GLASSには多様な専門性を持った人たちの力が必要です。皆さんの力を1つの方向に向かわせるには、明確なビジョンとコミュニケーションの密度が欠かせません。私のようにコンセプトメイクから入るタイプのデザイナーの仕事を突き詰めると、ビジョンを示すこととコミュニケーションが最大の役割なのではないかと思います。

―― 具体的にどのような専門家が、このプロジェクトに関わっているのですか?

島影 OTON GLASSを必要としている当事者はもちろん、彼らと直接関わりを持つ医師、医療・福祉、行政の関係者、また文字認識にカメラを使用するため、プライバシー問題に詳しい法律家からも助言をいただいています。大学院時代はメディアアーティストやエンジニア、大手企業の研究者といった、専門性や立場が異なる方々と共同プロジェクトを組むことが多かったので、当時の経験はいまもチームビルディングやプロジェクトマネジメントの面で役に立っています。


〜後編につづく〜

株式会社オトングラス 代表取締役

島影 圭佑氏

1991年生まれ。2010年、首都大学東京システムデザイン学部インダストリアルアートコースに入学。12年、父親が脳梗塞による失読症を発症したことが契機となり、文字情報を音声に変換するデバイス「OTON GLASS」(オトングラス)の研究・開発を開始。14年、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]へ進学し、同年に株式会社オトングラスを設立。18年から筑波大学図書館情報メディア系助教を兼務する。