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イノベーションを興す次世代リーダーたちの視点

第19回<前編>みらいごとラボ株式会社 代表取締役 岩井 真琴氏

第19回<前編>みらいごとラボ株式会社 代表取締役 岩井 真琴氏
<はじめに>

ここ数年、世界的規模でSTEM教育への関心が高まっている。STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、 Mathematics(数学)の頭文字をとった教育用語。日本でも2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されることが決まり、改めて注目が集まっている。今回は子どもやその保護者を対象とした各種教育サービスを提供している「みらいごとラボ」の岩井真琴代表に、専業主婦から起業家に転身したきっかけやプログラミング教育の醍醐味を聞く。

5年の専業主婦経験を生かし教育サービス会社を起業

―― 起業される前はどのようなお仕事を?

岩井 複数の広告会社で8年ほど営業に携わった後、結婚を機に退職し、それからの約5年間は専業主婦をしていました。

―― 専業主婦時代はどのように過ごしていましたか?

岩井 たまに実家の家業を手伝うこともありましたが、基本的に家事と育児の毎日でした。子どもに手がかからなくなったら、いずれ外に働きに出たいとは思っていたものの、「何年かしたらパートで働くことになるのか」と思う程度。なにしろ2人の子どもを育てるのに精いっぱいで、自分の将来をじっくり考える余裕すらありませんでした。家とスーパー、公園を行き来する日々のなか「自分は完全に社会から切り離されている」と、疎外感を抱いたこともありました。

―― どうやってその状況から抜け出したのですか?

岩井 ママ友たちと付き合うようになって考えが変わりました。それぞれいろいろな経歴を経て、主婦や母になった彼女たちと話すうち、少しずつ「いまの立場だからこそ、できることがあるのではないか」と思い始めました。主婦や母である私たちも、社会の一員であることに変わりありません。そう思ってからは、自分の置かれた立場に大きな可能性を感じるようになりました。

―― 例えばどのような話を通じて、ご自身の可能性に気づかれたのでしょうか?

岩井 「この子たちは、将来どんな仕事に就くのだろう?」「米アップルの創業者、故スティーブ・ジョブズや米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグのような人な経営者が日本から生まれないのはなぜか?」といった、主婦同士の何気ない会話からです。私たちが幼かった頃は、ほとんどの人が日本はものづくりに長けた、世界的にも進んだ国のひとつだと確信していました。でも、いまやかつてほどの勢いはなく、インターネットやウェブサービスの分野では世界に大きく遅れをとっているのが現状です。「なぜそうなってしまったのか?」。その理由を考え始めたことが起業のきっかけになりました。

―― 子どもたちへのプログラミング教育が問題の打開策になると?

岩井 そうですね。プログラミング教育の間口を広げ、敷居を下げることが、いずれはジョブズやザッカーバーグのような人物を日本から輩出することにつながるのではないかと考えました。ちょうど同じ頃、学生時代のアルバイト先の経営者で、後にみらいごとラボを一緒に立ち上げることになる松本(和久)と、お互いの子育て経験を生かした事業を興せないかという話になり、思い切ってプログラミング教育で起業に踏み切りました。

―― 教育やプログラミングに携わった経験は持っていたのでしょうか?

岩井 いいえ。私にも松本にも教育やプログラミングに携わった経験はありません。とはいえ、科学技術の進歩とともにプログラミングの重要性は高まっているのは承知していましたから、かつての同僚や取引先の方々、知人、友人、ママ友など、SNSでつながっているみなさんに「ジョブズやザッカーバーグのような人物を日本から生み出したい」と表明し、支援を呼びかけました。

―― 反響はいかがでしたか?

岩井 共感してくれたみなさんが、私の投稿をシェアしたり、リツイートしたりしてくれたこともあり、多くの方々と知り合うことができました。プログラミング経験が豊富な講師のみなさんも、SNSを通じて参画したいと申し出てくださった方ばかりです。時代とはいえ、SNSをフル活用できたのはとても幸運だったと思います。

―― 専業主婦から経営者になるというのは大きな決断だったのでは?

岩井 5年間のブランクがありましたし、経験があった世界に戻るのではなく、まったく新しい業界に飛び込んでいったわけですから、いまにして思うと自分でもずいぶんチャレンジングなことをしたと思います。実際に、家事と育児の傍ら、起業の準備で三日三晩徹夜したり、子連れで集客のビラ配りをしたりするのはそれなりに大変でしたが、やりたいことははっきりしていましたし、応援してくださる方も多かったので、私は目の前の問題をひとつずつクリアしていくことに専念できました。ですからそれほど苦労したとは思っていません。楽観的な性格も幸いしたと思います。

―― みらいごとラボと一般のプログラミング教室との違いは、どこにあると思われますか?

岩井 プログラミング経験がない親の立場からすると、既存の教室はハードルが高いと感じてしまうことが多いように思います。プログラミング経験がないだけに、カリキュラム内容が子どもに合っているのか、授業料が妥当なのか判断できないからです。そのためみらいごとラボでは、子どもたちがいつでも来たいときに来られるようなコース設定と、その都度払いの料金体系を採用しました。開業当初は予定していなかった親御さん向けのプログラミング講座や、子どもと一緒にネットリテラシーが学べるカリキュラムを提供するようになったのも、親御さんが抱えるプログラミングに対する先入観を取り除くためです。みなさんが安心して過ごせるよう、クッション素材で覆った教室や授乳室も用意しました。

―― カリキュラムの内容で工夫された点はありますか?

岩井 プログラミング体験をタブレットやPCの小さな画面内で完結させないようにしました。子どもたちが描いた絵をアニメーションにするにしても壁に大きく投影して見せたり、現実のロボットを自由に動かしたりするなど、視覚や体験を重視したカリキュラム内容にしているのが特徴です。絵やロボットを自分の意のままに操る経験を通じて、初めてのプログラミングを楽しい経験として記憶に刻んでほしかったからです。

―― 子どもたちの反応はいかがですか?

岩井 とてもいいです。先日、初めてプログラミングを体験したあるお子さんが、講師が教えたごく簡単な方法だけを使って、大人が考えもしなかった斬新なプロセスで課題をクリアしたことがありました。あのときはとても驚きましたし、涙が出そうなほどうれしかったです。子どもたちの創造力を目の当たりにすると、この仕事をしていて本当によかったと思います。親御さんから「普段は落ち着きのない子があんなに集中しているなんて」と、驚かれることも少なくありません。


〜後編につづく〜

みらいごとラボ株式会社 代表取締役

岩井 真琴氏

埼玉県出身。1981年生まれ。東京女子大学で文化人類学を学んだ後、広告会社に就職。その後も複数の広告会社で営業に携わり、2008年に結婚を機に退職。27歳から約5年間、2人の子どもを育てながら専業主婦として過ごす。 17年、主に幼児・児童を対象とした教育サービスを提供する「みらいごとラボ」を設立。翌年、東京都渋谷区内にプログラミングや英語、数学を教えるワークショップ施設を開設した。