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イノベーションを興す次世代リーダーたちの視点

第17回<後編>ドリコス株式会社 代表取締役 竹 康宏氏

第17回<後編>ドリコス株式会社 代表取締役 竹 康宏氏

前編では、創業から堀江貴文氏との機縁によってhealthServerの開発に乗り出すまでの経緯を聞いた。後編では、healthServer開発の苦労や販売網構築までに直面した課題、さらに竹氏が大事にしている仕事の流儀などについて聞く。

ダウンサイジングと配合精度の向上に約1年を費やす

―― 前回、以前に取りんでいた事業から撤退しhealthServerの事業化に舵を切られるまでの経緯を伺いました。healthServerの開発ではどのような課題に直面されましたか?

 当初、社内には栄養の専門家がいなかったのですが、この問題は私が塾講師だったときの教え子に管理栄養士がいて、彼女が仲間に加わってくれることでクリアできました。それ以上に大変だったのはハードウエアの開発でしたね。

―― 具体的にはどのような課題があったのですか?

 最初のプランでは栄養素を混ぜた液体を提供するつもりでした。しかし装置内部の洗浄といった手間や開発コストを考えると、液体は現実的ではありません。そこで粉末で提供することに決めたのですが、粉末にしたら粉末にしたで、粉の制御技術を確立するのにかなり苦労させられました。

―― 何か参考にした技術はあったのでしょうか?

 高速道路のサービスエリアなどにある給茶機が思い当たりましたが、メーカーに問い合わせたところで詳しい構造までは教えてもらえません。そこで似たような機械を取り扱っている海外メーカーに問い合わせたところ、保守部品を売ってくれることになったので参考にさせてもらいました。

―― ドリンクサーバーの機構が参考になるとは意外ですね。

 ええ。ただ自販機用なのでサイズがとても大きいのと、粉末を扱う精度がずいぶん違います。お茶であれば1グラム増えたとしても問題にはなりませんが、栄養素の配合には数ミリグラム単位の精度が必要です。内部機構の設計や栄養素を入れるカートリッジの開発、装置のダウンサイジングや配合精度の向上に1年くらいの時間を要しました。

―― 開発に際して、ピボット(事業の見直し)される前の経験は生かされましたか?

 生かされたと思います。どんなプロダクトでもそうでしょうが、当初の機能は必要最小限に絞るべきです。さして使われない機能に貴重な開発リソースを割いてしまうと、いつまでもリリースできない状況に陥ってしまいます。healthServer以前の事業でこうした課題は経験済みでしたから、精度の向上や小型化、コストの低減に集中できました。

―― 御社ならではという開発手法があれば教えてください。

 プロトタイプをベースに開発を進めるところでしょう。以前、企画書の段階では否定的な反応をしていた方が、プロトタイプを目にした途端、強力な支援者になってくださったことがありました。それ以来、どんなにボロボロでも構わないので、まずはプロトタイプをつくり、それに触れながらアイデアを出し合い、開発していくことに決めました。いまは精度が高い3Dプリンタ-が容易に手に入る時代です。スピーディーな開発には理にかなったやり方だと思います。

―― 配合される栄養素にはどのような基準で選ばれたのですか?

 アンチエイジングやサプリメントの研究で知られる医学博士の久保明先生に監修していただき、日常生活で不足しがちで、万が一飲み過ぎても健康被害が起きるリスクがない栄養素を厳選していただきました。具体的にはビタミンC、ビタミンB1、B2、B6、葉酸の5種類を基本セットに選定しています。

―― healthServerが市販のサプリメントより優れている点は、どこにあるとお考えですか?

 必要とするタイミングで必要な量を摂取できる点です。healthServerはスマートフォンやウエアラブルデバイスと連携できるので、スケジュール情報や日ごろの生活習慣などから、いまが運動直後なのか通勤前なのかといった判断ができます。ですからユーザーはあまり意識することなく最適な栄養素を摂ることができるのです。また履歴から過去の健康状態を振り返ったり、友人と比較したりすることもできるので、習慣化の面でも優位にあると思っています。

―― 今後のスケジュールと展望について聞かせてください。

 2017年はテストマーケティングと量産に向けた最終調整、販売チャネルの開拓に多くの時間を割いていました。幸いにも自販機ビジネスで全国に販路を持つダイドードリンコさんの協力で、オフィスを対象に販売できることが決まりましたので、18年から東京や大阪で販売をはじめ、19年末までに10万台を販売する計画です。

―― 今後の展開は?

 健康とパーソナライズをテーマに事業を展開していこうと考えています。現在、healthServerと並行して、資生堂さんとユーザーのストレスレベルや行動に合わせて3000以上の香りをつくり出せる、アロマディフューザー「BliScent」(ブリセント)の共同開発にも取り組んでいますが、こうした製品の開発を通じて、ユーザーがそれほどがんばらなくても、心身の健康が手に入れられる社会の実現を目指していきたいと思っています。使い込むうちに自分仕様にカスタマイズされていくような製品が理想です。

―― 最後に転職という人生の岐路に立つ読者にメッセージをお願いします。

 大事なのは自分がやりたいことを知ること、そして、その実現に最適な方法を見極めることだと思います。私自身、もともと起業したいという強い意志があって会社をつくったわけではありません。これまでにない製品づくりを模索するうち、起業が最適だと思ったから実行しただけのことです。もしもいま社会に出るとしたら、子どもの頃の夢だったソニーに入る道を選んだかもしれません。最適な方法は時代によって変わります。社会情勢や自分が取り得る選択肢をよく観察して、信じる道を選んでほしいですね。


<取材後記>

高齢化社会が到来し、寿命だけではなく健康寿命が重視される時代になった。テクノロジーは治療だけでなく予防医療の進歩も加速させる。ドリコスはこれからのヘルスケアビジネスの未来を担うベンチャーのひとつといえるだろう。竹氏のいう「プロトタイプをベースにした開発」という言葉通り、オフィスには3Dプリンタ-や工作機械が並ぶ。同社の明るい未来を感じずにはいられない光景だった。


ドリコス株式会社 代表取締役

竹 康宏氏

2010年3月、慶応義塾大学理工学部電子工学科卒業後、大学院に進学。半導体チップの3次元集積のための高速無線通信インタフェース、電力伝送システムの研究に従事。12年1月、ドリコス創業。同年3月に修士号、15年3月には博士号(工学)を取得する。15年4月から16年3月まで、慶応義塾大学理工学部電子工学科助教を務める。現在はユーザーの生体情報やスマートフォンの行動情報に基づき、最適な栄養素を提供するhealthServerの普及に取り組んでいる。