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イノベーションを興す次世代リーダーたちの視点

第17回<前編>ドリコス株式会社 代表取締役 竹 康宏氏

第17回<前編>ドリコス株式会社 代表取締役 竹 康宏氏
<はじめに>

テクノロジーの進歩はビジネスのデジタル化を加速させる。ヘルスケア領域も例外ではない。今回取材したのは、ユーザーの体調に合わせてサプリメントを提供する、healthServer(ヘルスサーバー)の開発を手がけるドリコスの竹康宏氏だ。大学院生時代に起業した背景やhealthServerの開発に着手した経緯を聞く。

ピボットを経てたどり着いた、サプリのオーダーメイドという発想

―― まずはhealthServerの特徴を簡単に教えてください。

 healthServerは、ユーザーがいま必要とする栄養素を提供してくれる装置です。本体の側面にあるセンサーに指を触れていただくと、脈の情報から疲労度やストレスを独自のアルゴリズムによって算出。それに基づいて必要な成分を分析し、粉末のサプリメントを提供します。スマートフォンのスケジュールデータやウエアラブルデバイスの運動履歴などと連携すれば、さらに正確な分析が可能になります。

―― ドリコスは大学院時代に起業されたそうですね。

 はい。修士課程が修了する直前の2012年1月に創業しました。

―― もともと起業志向が強かったのでしょうか?

 いいえ。むしろ自分が起業するなんて大学院に進学するまで考えたことはありませんでした。むしろ、子どものころからソニーで働くことが夢でしたから、創業直前まで大手家電メーカーで働くことは、自分にとってかなり有望な選択肢だったのです。でも私が大学院に進学した2010年代前半は、日本の家電メーカーの業績不振が始まったタイミングとも重なります。当面、若手に開発を任せるような状況はこないだろうと判断し、就職ではなく進学を選びました。

―― 博士課程に進学されたのは、研究に打ち込むためですか?

 はい。でも、アカデミズムの世界で生きていこうと思って進学したわけではありません。博士過程に進もうと決めた時点で、起業する決意も固めていました。

―― 起業するのであれば、博士過程に進む必要はなかったのでは?

 博士号を取ろうと思ったのは、一定の学問を修めていたほうが優秀なエンジニアや大学の先生など、プロの協力が得やすくなると考えたからです。「この人は口だけでなく、本気で取り組もうとしている」と思っていただければ、協力も仰ぎやすくなるのではないかと考えましました。

―― それで学問と商売の二足のわらじを履かれたと。

 はい。ビジネスを成功させるにはひらめきやアイデアも大事ですが、一方で技術的な積み上げも欠かせません。私がやりたいのは機能の多さや処理速度の速さといった性能を誇るような製品づくりではなく、それまで想像さえしなかったことができるようになる製品づくりです。そのためには専門性をしっかり身に付けたうえで、新しいことをやるんだという意志を社会に発信する必要もあるだろうと思い、進学と起業に挑戦したのです。

―― その後はどのような活動を?

 さまざまなビジネスコンテストに応募する傍ら、healthServerとはまったく違うビジネスに取り組み始めました。

―― どのようなビジネスですか?

 手持ちのタンブラーや水筒に好きな飲み物が入れられる自販機ビジネスです。セルフサービスのガソリンスタンドのように従量課金で必要な飲み物を必要なだけ注げる自販機があれば、経済的にも環境的にもいいだろうと考えました。「パトル」というサービスです。

―― その後、パトルはどうなりましたか?

 生協さんや飲料メーカーの販社さんのお力添えもあり、4つの大学構内に設置することまではできたのですが、およそ3年後に撤退しました。

―― 撤退の要因は?

 マイボトルを持っている大学生の数が、高校生以下の若年層や社会人に比べて低かったことが主な要因でした。生協に行けば同じかそれ以下の値段で飲み物が買えるのに、数千円する容器を買ってまで使いたいと思ってもらえるような需要を喚起することができなかったのです。

―― それですぐピボット(事業の見直し)されたのですか?

 撤退したほうがいいだろうと思ってはいましたが、実際に決断を下すまでには相当悩みました。大学生ではなく社会人をターゲットにすれば、挽回できるチャンスがあるのではないかという思いもありましたから。実際に、ある企業から食堂に置きたいという引き合いもきていたこともあり、なかなか切り替えのタイミングがつかめなかったのです。

―― その時点でhealthServerのアイデアはお持ちだったのですか?

 イメージはありました。2015年3月のことです。参加者をシリコンバレーに派遣する経済産業省の公募に参加するに当たって、その人の嗜好や体調に合わせて、フルカスタマイズしてくれる飲み物を提供するというアイデアを考えました。いうなればパトルの未来系です。これがhealthServerの原型になりました。

―― でも、舵を切る決心がつかなかったわけですね?

 そうですね。すでにプロトタイプをつくり終えていたぐらいなので、いずれは世に出すつもりでいましたが、本当にすべてを投げ打って開発に踏み切っていいのだろうかという不安を抱えていたのは確かです。

―― ピボットを決心したきっかけは?

 ホリエモンこと堀江貴文さんの助言のおかげでした。堀江さんがベンチャービジネスの将来性をジャッジするというテレビ番組の企画に参加させてもらったとき、パトルがスケールするとは思えないけれども、healthServerならすごく可能性を感じるとおっしゃっていただけたのです。それでhealthServerの開発にすべてをつぎ込む決心が固まりました。


〜後編につづく〜

ドリコス株式会社 代表取締役

竹 康宏氏

2010年3月、慶応義塾大学理工学部電子工学科卒業後、大学院に進学。半導体チップの3次元集積のための高速無線通信インタフェース、電力伝送システムの研究に従事。12年1月、ドリコス創業。同年3月に修士号、15年3月には博士号(工学)を取得する。15年4月から16年3月まで、慶応義塾大学理工学部電子工学科助教を務める。現在はユーザーの生体情報やスマートフォンの行動情報に基づき、最適な栄養素を提供するhealthServerの普及に取り組んでいる。