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イノベーションを興す次世代リーダーたちの視点

第16回<前編>ディライテッド株式会社 代表取締役CEO 橋本真里子氏

第16回<前編>ディライテッド株式会社 代表取締役CEO 橋本真里子氏
<はじめに>

日本を代表するIT企業の受付を経て、起業家に転身した女性がいる。ソフトウエア開発のディライテッドを経営する橋本真里子氏だ。プロダクト開発の経験がない彼女はどうやって仲間を集め、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」(レセプショニスト)の開発を成功させたのか。そこには受付業務への愛と飽くなき改善意欲、そしてチャンスを引き寄せるフットワークの軽さがあった。

ソースコードの譲受で一気に加速したプロダクト開発

―― 11年にわたって企業の受付を担当されていたそうですね。

橋本 トランスコスモスやUSEN、ミクシィ、GMOインターネットといった、IT企業で受付業務を担当しつつ、サブリーダーやリーダーという立場でメンバーの育成やマネジメントに携わっていました。比較的規模が大きかったトランスコスモスやUSENに勤めていた時代には、多くの受付担当を束ね、1日1000人近いお客様をお取り次ぎしていたこともあります。

―― 受付業務から一転、受付システムの会社を起業されたわけですが、どんな課題意識があったのですか?

橋本 大企業の受付窓口では大抵、紙の受付票に来訪者のお名前や所属、訪問先を記入していただきます。来訪者ご自身の名刺を2枚提示していただくなどして身分を確認させていただくこともありますが、いずれにしても訪問されるたびに記入・提示していただくのが通例です。初めてのお客様も顔見知りのお客様も例外はありません。
また、せっかく記入していただいた受付票も手書きのアナログ情報ゆえに再利用されることはほとんどなく、一定期間保存された後は破棄されるのを待つばかりです。受付業務を担当しながら「こうした手間や無駄を解消できるのでは」と考え始めたことが、起業につながりました。

―― 毎回、受付票に手書きをするのは確かに面倒です。受付の方もフラストレーションを感じていたのですね。

橋本 そうですね。今はITを活用したサービスが世の中に広がり、私たちの生活も劇的に便利になっています。しかし私が受付業務に携わるようになった2005年から、退職した16年までに限ってみても、受付業務のあり方はほとんど変わることはありませんでした。そもそも受付担当にとって一番大事なのは、企業の顔としてお客様を「おもてなし」することです。受付手続きを効率化することは、おもてなしの質を上げる意味でも大事なことだと感じていました。

―― いつごろから、こうした問題に着目されたのでしょうか?

橋本 もやもやとした感覚は最初から持っていましたが、はっきりと自覚したのは20代最後の年、受付としてのキャリアの集大成にしようと入社したGMOインターネットでのことです。私自身、この仕事が大好きでしたし、愛着と誇りを持って仕事に取り組んでいましたが、年齢を考えると次のキャリアを考えなければならないタイミングでした。
別の仕事への転職も考えましたが、11年のキャリアは無駄にしたくありません。そこで思い切って、自分の手で受付業務の効率化を実現しようと決めました。これこそ受付を長年経験してきた私にしかできない仕事だと感じたからです。

―― プロダクト開発の経験をお持ちではありませんが、ITサービスで起業することに躊躇はなかったのでしょうか?

橋本 知人に起業の話をすると、何度か「受付専門の派遣業でも興すの?」と聞かれたことはあります。でも私はITサービス以外で起業しようとは考えませんでした。今後、受付業務の担い手が減るのは明らかですし、有人受付が増える見込みも、ほぼありません。
派遣人材を抱えるリスクを背負うよりも、受付業務を効率化するシステムを提供するほうが、より大きな価値が提供できるはずです。確かに私にはプロダクト開発の経験はありません。でも、スマートフォンやウェブサービスを使うこともIT企業のカルチャーも大好きですし、身近にエンジニアの知人もいましたから、自分には無理だとは思いませんでしたね。

―― RECEPTIONISTの開発の経緯が、とてもユニークだと聞いています。詳しく教えてください。

橋本 16年3月に開催された「B Dash Camp 2016 Spring in Fukuoka」というイベントに参加したとき、以前にGMOペパボに勤めていたトレタの最高執行責任者(COO)、吉田健吾さんと再会しました。東京に戻って改めてお会いした折に、「TechCrunch Tokyo 2015」のハッカソンでトレタの皆さんが開発していた「→Kitayon」(キタヨン)が、その後どうなったのかお聞きしました。

―― キタヨンとは、どのようなものですか?

橋本 iPadを使ったオフィス受付アプリです。トレタのエンジニア有志が1泊2日のハッカソンで開発したと聞いています。私も同じ時期に同じジャンルのアプリを作ろうとしていましたから知っていました。吉田さんによると「その後も開発を続けたが、トレタの本業は飲食店向け予約台帳システムの開発。現状は動いていない」とおっしゃいました。先方としても、せっかく開発したアプリの処遇に困っていたようです。
そこで、すかさず何かご一緒できないかと相談しました。この会話がきっかけとなりキタヨンのソースコード譲渡、最高経営責任者(CEO)の中村仁さんや最高技術責任者(CTO)の増井雄一郎さんのアドバイザー就任へと話が広がっていったのは、私たちにとってラッキーだったというほかありません。

―― 行き場を失っていたハッカソンの成果をもとにRECEPTIONISTが生まれたわけですね。

橋本 せっかく開発したものを放置しておくのはもったいないですし、私としても最短でユーザーにサービスを届けるためには、譲渡という手段は有効だと思いました。とはいえ譲渡段階では6桁の番号で社員を呼び出す仕組みとユーザーインターフェースしか実装されていませんでした。
プロダクトとして正式リリースするには追加開発は必須です。開発に携わってくれる仲間を集めつつ、このサービスにどうやって私の経験を取り入れていくべきか、手探りのなか開発を進めていきました。


〜後編につづく〜

ディライテッド株式会社 代表取締役CEO

橋本真里子氏

三重県出身。2004年3月、武蔵野女子大学(現武蔵野大学)を卒業後、アパレル販売員やテレフォンアポイント、家庭教師を経てトランスコスモスの受付となる。その後、USEN、ミクシィ、GMOインターネットなど、大手企業5社で受付業務やメンバーマネジメントを経験。16年1月、ディライテッドを設立。17年1月、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリースする。