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イノベーションを興す次世代リーダーたちの視点

第14回<後編>dely株式会社 代表取締役 堀江裕介氏

第14回<後編>dely株式会社 代表取締役 堀江裕介氏

前編では、創業からピボット(事業転換)するまでの経緯について聞いた。後編では、国内最大級のレシピ動画サービスへと成長する過程で学んだ教訓や信念、事業の将来像について掘り下げて聞く。

delyを近い将来、時価総額1000億円企業にするために

―― フードデリバリー事業から撤退したことをきっかけに、大多数の社員が辞めたそうですが、当時はその状況をどのように受け止められましたか?

堀江 もちろん辛かったですし、社員に対しては申し訳ない気持ちでいっぱいでした。しかし、皆が納得するような方向性を示せなかったわけですから仕方ありません。ただ、社員の人生を背負っているというプレッシャーを常に感じていましたから、もう一度、腰を据えて考え直す時間がいただけたのだ思い、少しほっとした気持ちもありました。

―― 『クラシル』を立ち上げ、1年足らずでレシピ動画専業へとシフトしたのは、どのような意図だったのでしょうか?

堀江 ピボットから約1年が経ち、メディア自体は黒字にできたのですが、ここからさらに事業を大きく成長するイメージが湧きませんでした。そんなとき、唯一のエンジニアでもあった共同創業者から、これ以上状況が好転しなければ3カ月後に退職するといわれ、再び会社存続の危機を迎えてしまったのです。


―― このときはどのように事態を打開されたのでしょう?

堀江 ふと、1年ほど前から可能性を探っていた動画サービスが頭に浮かびました。投資家の1人として、いまもdelyを支えてくださっているgumiの國光(宏尚)さんとも「これから動画マーケットがくる」という話をしていて、自分もそうだと確信してはいたのですが、社内を見渡しても、誰ひとり動画を扱ったことがある人間はいませんでした。ならば自分でやろうと思い立ち、レシピ動画をつくってみることにしたのです。

―― 反響はいかがでしたか?

堀江 社員の反応も上々で、動画を投稿したSNSのユーザーからも良い反響が得られ勇気が湧きましたね。それから1週間後には、会社の全リソースを動画に振り向けることに決めたほどです。


―― それは急展開でしたね。その後は?

堀江 ここから、さらに数カ月かけて食やライフスタイル、美容、ペットなど、いろいろなジャンルの動画を試し、最終的にもっともパフォーマンスが良い食カテゴリーの動画に絞ることを決めました。2016年2月のことです。


―― 非常にスピーディーな決断でしたね。

堀江 そうですね。資本力も組織力もないスタートアップが大企業に勝てることがあるとしたら、意思決定のスピードとオペレーションを勢いよく回すくらいしかありません。数字からも、ユーザーの食に対する関心の高さがうかがえましたし、業界全体を見渡しても画像から動画へのフォーマットチェンジが進むことは明らかでした。それでレシピ動画に賭けることに決めたんです。

―― 『クラシル』がいまの形になって1年。現在はどんな状況ですか?

堀江 キュレーションメディアだったころと違い、動画は引用することができません。すべて自分たちで動画をつくらなければ成立しませんから、自社メディアに対する愛着は以前よりも増した気がします。そのせいか社員のモチベーションも高まっているようです。

―― 過去の変遷を振り返って得た教訓はありますか? あればぜひ聞かせてください。

堀江 僕が社員に対してすべきだったことは、皆に優しさを振りまくことではなく、会社を急成長させることだったという反省です。過去の失敗を改めて考えると、リスクを冒して小さなスタートアップに入社してくれた社員に、輝かしいキャリアを提供できなかったことが一番の問題だったように思います。いまはその反省を踏まえ、社員の3年後、5年後の人生がより良いものになるよう、全力で経営に向き合っています。

―― 試行錯誤の末、レシピ動画という「鉱脈」を掘り当てたわけですが、今後はどのような事業を目指されますか?

堀江 まずは、この領域で圧倒的な地位を占めることが当面の目標です。そのうえで、ごく早い段階でdelyを時価総額1000億円、1兆円企業に成長させたいと思っています。それぐらいの事業規模がないとルールメーカーにはなれませんし、社会の基盤を担える企業にはなれないからです。

―― この目標を達成するために、現在どのような努力を?

堀江 当然、それくらいの規模の企業にしようと思えば、新たなトレンドをいち早くつかみ、新規事業に取り組まなければなりません。大事なのは常にアンテナを高く張って情報を捉えることですが、ソフトバンクの孫さん、楽天の三木谷さん、サイバーエージェントの藤田さん、GMOグループの熊谷さんクラスの優れた経営者が、かつてどのような戦いを挑んでこられたのか、また、インターネットやソーシャルゲーム、スマートフォンがどのような変遷をたどって普及してきたのか、常に歴史から学ぶようにしています。

―― 最後に読者にメッセージをお願いします。

堀江 僕はこれまで、自分がオンリーワンになれる場所を見つけて、自分なりの切り口を生かして戦ってきました。僕のライバルは、大企業の幹部経験者や華々しい実績を持つベテラン経営者の皆さんたちです。こうした方々と互角に渡り合うために、僕は「24歳」×「起業家」×「勝負師」という自分の特徴を強く打ち出すべきだと考えました。そうすれば、多くの方に僕らの取り組みを知っていただくきっかけになると考えたからです。それが結果として、さまざまなメディアに取り上げられたり、名だたる投資家の皆さんにご支援をいただく契機になったりもしました。
自分にはどういう面白さがあるのか、どこに踏み出せばオンリーワンになれるのか、客観的に自分を見つめることが大事なのは経営者だけに限りません。世の中の流れに惑わされず進むべき道を見つけ、自分の市場価値を高めるために、自己を見つめ直すことはとても大事なことだと思います。


<取材後記>

小学校から高校までは野球、大学時代は「アルティメット」というフライングディスク競技に夢中だったという堀江氏。いまはキックボクシングで汗を流している。しかしそれもあくまで仕事のため。健康も体力も優れた経営者にとって欠くべからざる資質だと考えるからだ。周囲の期待に押しつぶされることのない強い精神力は、強じんな肉体によって支えられているようだ。


dely株式会社 代表取締役

堀江 裕介氏

1992年生まれ。2014年4月、慶應義塾大学環境情報学部在学中にdelyを創業する。同年7月から、フードデリバリー事業をスタートさせたが、15年1月にサービス停止。女性向けキュレーションメディア『kurashiru』(クラシル)の運営へと事業転換を図る。当初、同メディアは食、ライフスタイル、美容、ペットなどのカテゴリーを扱っていたが、16年2月を境にレシピ動画に特化したメディアへとリニューアル。現在『クラシル』は、SNSや自社アプリなどを通じて、月間再生数1億2000万回、190万人のファンを擁する国内最大級のレシピ動画サービスへと成長を遂げている(実績数値は17年3月時点)。