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イノベーションを興す次世代リーダーたちの視点

第14回<前編>dely株式会社 代表取締役 堀江裕介氏

第14回<前編>dely株式会社 代表取締役 堀江裕介氏
<はじめに>

国内の名だたるベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家たちを引き付けてやまない起業家がいる。レシピ動画サービス『クラシル』を運営するdelyの堀江裕介氏だ。堀江氏は21歳の若さで同社を創業。レシピ動画への参入時期は最後発にあたるものの、圧倒的なスピードで認知を獲得し、競合企業がひしめくレシピ動画サービスの中で、重要な地位を占めるまでになった。その秘密はどこにあるのか。堀江氏に直撃した。

孫正義氏にあこがれ起業家を目指した学生時代

―― 大学在学中に起業されていますね。起業家を目指そうと思ったきっかけを聞かせてください。

堀江 東日本大震災の発生直後、ソフトバンクの孫正義さんが震災復興に100億円寄付されるという話を耳にしました。この話を聞いたとき、率直に自分もいつか孫さんのように、社会に大きな影響を与えられるような存在になりたいと思ったことが、起業家を目指すきっかけになりました。もちろん影響力のある人は起業家だけに限りませんが、ビジネスはスポーツや芸能に比べて、再現性がある世界だと感じたことも大きかったですね。

―― どういうことでしょうか?

堀江 高校野球に例えてみます。地方大会に参加する高校は全国でおよそ4000校。各高校に部員が40人いれば、全国で16万人もの高校球児が甲子園の頂点を目指し、しのぎを削ることになるわけです。これは非常に競争密度が高い。しかも負けたら終わりという世界の中でトップの座に就こうと思ったら、特別な才能や運も味方に付けなければなりません。これはもの凄く困難な戦いです。


―― そうですね。

堀江 もちろんビジネスにも才能や運は必要でしょう。でも、こうした過酷な競争を強いられる世界に比べたら、ビジネスのほうがはるかに努力が結果に反映されやすいと思ったのです。しかも、まだ誰にもその価値に気付いていない分野にいち早く参入できれば、競争密度はさらに低くなります。その上でがんばってオペレーションを回せば、自分にもジャイアントキリングが起こせるのではないかと思いました。

―― なるほど。それで起業家、経営者になりたいと?

堀江 そうですね。僕自身、プログラミングができるわけでも、人より秀でた才能があるわけでもありません。でも努力なら人一倍できる。もし再び、東日本大震災のような悲劇に襲われるようなことがあっても、自分が社会に対して影響を与えられる存在になっていたら、多くの人を救えるはずです。それで会社を興し、孫さんのような器が大きい経営者になりたいと思いました。

―― その中でもフードデリバリー事業を選ばれた理由を聞かせてください。

堀江 初期コストが安いインターネットを活用したビジネスの中でも、デリバリーは当時、海外で大流行していましたし、国内で顕在化しつつある社会問題の解決にもつながる事業だと考えたからです。

――  社会問題とは?

堀江 商品関連の需要はどんどん上がり、多様化していますが、宅配に携わる労働人口は減りつつあります。今後、さらに少子高齢化が進めば、ますます物流業者のリソースは足りなくなっていくのは明白です。そこでクラウドソーシングの仕組みを使って、物流に携わる人材を確保しようと考えました。その中でも、宅配をしていないレストランのメニューでも注文できるフードデリバリーを選んだのは、食に関わるだけに1日当たりの注文機会が多いと踏んだから。でも最終的に、このビジネスを成功に導くことはできませんでした。

―― 失敗の原因はどこにあったとお考えですか?

堀江 競合を見誤ったことですね。本当に戦うべき相手は同業他社などではなく、コンビニエンスストアだったのです。サービス開始当初は、注文の密度を上げるために渋谷エリアに絞って営業していたのですが、数分も歩けばすぐにコンビニエンスストアに出くわすような環境では、利用者にとって配送料500円は非常に重い。海外とは前提条件がまったく違っていたわけです。強いていうなら、配送料を上回る便利さを提供できなかったことが敗因でした。



―― 撤退の決断には勇気が必要だったでしょうね。

堀江 確かに勇気は必要でしたが、どう考えても見込みがないことが明らかになった事業を続けるより、恥を忍んで撤退する道を選ぶほうがましです。でも本当の問題は撤退したことよりも、撤退を決めた時点で次に何をすべきかまったく見えていなかったことかもしれません。当時の状況でできることは限られていました。急場をしのぐ意味でキュレーションメディアを立ち上げたのです。

―― どうしてキュレーションメディアを?

堀江 インターン生だったときに覚えたSEOの知識やメディアづくりの経験が生かせると思ったからです。いち早く新しい事業に舵を切って、社内に流れる悪い空気を一掃したいという思いもありました。


―― ピボット(事業転換)を実行されて、社内の空気はどう変わりました?

堀江 思うようにはなりませんでしたね。日本の物流を変えようと思って入社してきた社員がほとんどでしたから、キュレーションメディアの運営は想定外の仕事です。自分と共同創業者、数人のインターンだけを残して、それ以外の社員たちは全員退職してしまいました。


〜後編につづく〜

dely株式会社 代表取締役

堀江 裕介氏

1992年生まれ。2014年4月、慶應義塾大学環境情報学部在学中にdelyを創業する。同年7月から、フードデリバリー事業をスタートさせたが、15年1月にサービス停止。女性向けキュレーションメディア『kurashiru』(クラシル)の運営へと事業転換を図る。当初、同メディアは食、ライフスタイル、美容、ペットなどのカテゴリーを扱っていたが、16年2月を境にレシピ動画に特化したメディアへとリニューアル。現在『クラシル』は、SNSや自社アプリなどを通じて、月間再生数1億2000万回、190万人のファンを擁する国内最大級のレシピ動画サービスへと成長を遂げている(実績数値は17年3月時点)。