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第12回<後編>DVERSE Inc. CEO 沼倉正吾氏

第12回<後編>DVERSE Inc. CEO 沼倉正吾氏

前編では、キャリアの出発点となった日本、台湾での店舗運営経験や、DVERSE創業までの経緯について聞いた。後編は、現在開発中の建築・土木業界向けVR制作ソフトウエア「SYMMETRY」の狙いや、今後の事業展開へと話を進める。

土木・建築業界に特化したVRソフトウエアで再起をかける

―― 2014年にVR専業のDVERSEを立ち上げられて2年。現在はどのような取り組みをされているのですか?

沼倉 2015年末までは、エンターテインメントとビジネスの両面で事業の可能性を探っていましたが、今年からは完全にビジネス向けに絞って開発を進めています。中でも土木・建築業界に着目したのは、CADデータを活用したVRへの関心が高かったからです。 現在、開発を進めている「SYMMETRY」(シンメトリー)は、建築設計や空間デザイン用のVRアプリケーションとして、16年中にβ版、17年には製品版をリリースする予定です。

―― SYMMETRYについて詳しく教えてください。

沼倉 SYMMETRYにCADデータを取り込むと、実寸の3D空間が生成されます。利用者はヘッドマウントディスプレー(HMD)を通じてその空間に入り、天井の高さや家具の高低差、隣の部屋への距離感、インテリアの配置など、従来、図面上ではわかりづらかったイメージを感覚的に把握できるようになります。 当初は3D空間内で設計を変更できるような使い方を想定していましたが、建築家や空間デザイナーの方々に試用していただいたところ、「体感」や「イメージの共有」にニーズがあることがわかり、15年12月末を持ってピボット(方向修正)しました。500 Startups Japan などから出資を受けたのもピボット後のサービスに対してです。

―― 試用された方々の反応はいかがですか?

沼倉 建築家の皆さんは従来、立体模型や3Dでウォークスルー画像を作るなどして、図面と現実のギャップを埋める努力をしてきました。ただ、そこまでしたとしても、設計段階の印象と完成後の印象には差があるものです。 建築家や空間デザイナーなら、過去の経験でその差を補えますが、施主である一般の方にはその経験が乏しい。どうしても受け止め方に大きな開きが出てしまいます。VRを活用すれば、誰でも実体験に近い経験ができますから、その差を最小限に抑えられます。多くの方がそこに可能性を感じてくれているようです。

―― 当面の課題は?

沼倉 今年になって「Oculus Rift」の製品版やHTCの「Vive」、ソニーの「PlayStation VR」が発売され、「VR元年」という言葉が聞かれるようになりました。しかし、これらのHMDを購入している方はイノベーター中のイノベーター。実際にVRを経験したことがある方は決して多くありません。とくに、私たちが主なユーザーとして想定している建築やデザインの分野で、VRを実務に取り入れようという意欲的な方は、まだほとんどいらっしゃらないのが現状です。まずは皆さんにVRを体験してもらい、現在の業務にどのような価値を与えるものなのか、知っていただくことが当面の課題になると思います。

――  技術的に難しい部分は?

沼倉 技術的な難しさでいえば、UI(ユーザーインターフェイス)の設計が一番です。ソフトウエア開発の観点からいうと、VRコンテンツの開発と一般的な3Dゲームの開発との間に、大きな隔たりはないのですが、フラットなモニターとHMDとでは使用環境が大きく異なります。とくにコンピューターの操作に慣れていない人にとって、直感的なUIはどうあるかは非常に重要なので、今後も試行錯誤が必要だと感じています。

―― VRが普及するために必要な条件は?

沼倉 コンピューターの歴史は、人間が考えたこと、イメージしたことを、どれだけ簡単に再現するかを追求してきた歴史です。VRも例外ではありません。私たちが開発中のソフトウエアにSYMMETRYと名付けたのは、頭の中のイメージやアイデアをそのまま3D空間に投影できる技術を確立したいという思いがあったからです。

しかし、VR技術だけが発展しても普及は望めません。すべてのテクノロジーは、関連する技術が影響し合って進化していくものだからです。実用的なHMDが生まれたのは、スマートフォンが普及し液晶ディスプレーの価格が一気に下がったことが一因といわれています。VRが普及期に入るには、高速なCPUの開発やCG技術の向上はもちろん、10Gbps以上の通信速度を実現する5G(第5世代移動通信システム)など、周辺技術の発展が不可欠だと思っています。




―― 17年には製品版をリリースされるそうですが、具体的にはどんな事業展開を狙っていますか?

沼倉 DVERSEの法人登記は米デラウェア州で行いました。海外の方が投資を受けやすい環境が整っており、市場が大きくなるスピードが、国内とは比べものにならないスピードで展開するだろうと考えたからです。すでに、北米や欧州の建築家や空間デザイナー、またプロモーションやイベント企画会社などに協力してもらい、SYMMETRYのブラッシュアップを進めています。リリース後についても、北米や欧州をメーンに事業展開を行うつもりです。

―― 会社としての目標は?

沼倉 90年代以降、安価なパソコンの登場によって、さまざまな仕事がアナログからデジタルへ移行しました。世界的なソフトウエアベンダーであるアドビは、そうした時代の流れを受けて大きくなった会社のひとつです。道のりは険しいですが、私たちもいずれ、VR分野において彼らのようなポジションを占められたらと思っています。

―― 最後に読者に向けてメッセージを。

沼倉 私の場合、もともと好きだったジャンルで仕事ができているため、非常に恵まれていると思っています。とはいえ、これまですべてが順風満帆だったわけではありません。40代で自分の会社を潰すという手痛い失敗も経験しています。だからといって再起不能にはなりませんでした。人によって置かれている状況はさまざまですし、人生の目的は人それぞれです。 それでも1つ、いえることがあるとすれば、やってしまった後悔より、やらなかった後悔のほうが後を引くということ。結果はどうあれ、自分が好きなことを見つけてチャレンジすることは、より良い人生を歩む上ではとても大事なことではないでしょうか。心からやりたいと思えることがあれば、人は何度でも挑戦できるのです。

<取材後記>

VRの可能性にいち早く目を付け、2年の歳月をかけ事業化の可能性を模索し続けた沼倉氏。加熱するVR人気とは裏腹に「話題が沈静化してからが本当の勝負」と静かな闘志をみなぎらせる。2016年6月には、プロダクトの完成前にも関わらず、著名な投資ファンド、500 Startups Japanなどから巨額の出資を得るなど、同社にかけられた期待は大きい。エンターテインメント分野でのVR活用が拡がる中、ビジネス分野に活路を見いだしたDVERSEの今後に注目したい。


DVERSE Inc. CEO

沼倉 正吾氏

1973年生まれ。秋葉原のパソコン販売店を経て、97年、エックスタイムジャパンに入社。2000年、取締役に就任。01年、親会社である有楽股份へ出向し、台湾家電量販店12店舗の設立や運営を担当する。04年、ナスカークラフトを設立し代表取締役に就任。ゲーム開発や企業向け広告・動画配信システムの開発を手掛ける。13年、ゼネテックに入社し新規事業部長を務めた後、14年、VRを専門とするDVERSE Inc.を米デラウェア州に設立する。現在は建築・土木業界向けVR制作ソフトウエア「SYMMETRY」(シンメトリー)の開発に力を注ぐ。