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識者インタビュー

転職経験12回の「達人」に聞く

転職経験12回の「達人」に聞く

人生100年時代の到来や働き方の多様化を背景に、大転職時代の足音が聞こえてきた――。転職を軸とするキャリア形成は今や、ビジネスパーソンの一般的な選択肢になったものの「マイベスト」な企業を見つけ、成功と言える転職をなしとげるのは至難の業だ。転職経験12回の「達人」ともいえる経済評論家、山崎元さん(61)に、企業選びのコツや普段から必要な心がけについて話を聞いた。

――どのような基準で転職先を選んだのですか。

「仕事の内容、一緒に働く人のクオリティー、会社の良しあし、の3つです。仕事の内容が大切なのは、私が転職において最重要視する『自身の人材価値への影響』に直結するため。転職先で働くことで人材価値がどう変化するか、事前に見極める必要があります。例えば、ファンドマネジャーから生命保険の営業職という転職はキャリアの連続性に欠けるため、人材価値を落としやすいといえます」

「転職先で何の仕事をするか、が非常に重要です。仕事の連続性があり、かつ、その能力が落ちなければ、例えその会社が合わなくても自分の価値をあまり損なうことなく再び転職することも可能です。詳細な業務内容を詰めずに転職を決める人が多いですが、これは典型的な失敗例。入社後に『思っていた仕事と違った』というのでは、人材価値は高められません」

新天地選びのカギは「人材価値」向上への効果

「一緒に働く人のクオリティーが大事なのは、優秀な人と競争しながら仕事を覚えることで人材価値が上がるからです。新卒学生に就職先選びのアドバイスを求められるたびに『優秀な人が多くて忙しい会社』を薦めてきましたが、転職でも同じ。量を伴わずして質の向上はありません。何事も場数をこなす必要があり、質の良い仕事をする人間は必然的に多忙になる、というのが私の持論です。昨今、働き方改革とよくいわれますが、ワークライフバランスを過度に重視して転職先を選ぶ人間の伸びしろは少ないと思わざるをえません」

――「会社の良しあし」をどのように見極めますか。

「まずは売上高、利益が安定的に伸びている企業をお薦めします。業績が継続的に拡大していれば、雇用が保障されるだけでなく給料アップも期待できます。何より、会社の雰囲気が明るいであろうことも大きいです。一方、利益が不安定な会社はリストラや倒産のリスクも高いです」

「外資系企業の場合は日本法人の業績が良くてもリストラや日本撤退などの憂き目にあうこともあるので注意が必要です。海外の本社の業績チェックも欠かせません。業界内の競争力をはかる上で、営業利益率が同業他社と比べ高いかどうかも重要なポイント。他社と比べて高ければ、価格の安さ以外で勝負できるブランド力や製品があるということです。すなわち、値下げ余地が大きいことを示していて、業界内での競争力が高いといえます」

――足元の業績より成長性を重視して転職先企業を選ぶ人も少なくありません。

「個人的には成長性ほど評価できないものはないと思います。ビジネスの世界でリアルに想像できるのはせいぜい2年先で、5年後、10年後は『はるか先の未来』ととらえるべきです。そんな遠い将来の事業計画はあてにできるものではなく、成長性だけで転職先を決めるのは得策とはいえません。もちろん、成長性もあり、かつ、足元の売り上げ、利益も伸びているという会社もあります。ただ、重要なのはあくまでも現在のビジネスであり、直近の数字です」

「成長ストーリー」に惑わされるな

「ベンチャー企業などの『成長ストーリー』に魅了されるケースもあるでしょうが、正直、あまり当てにならないと思います。社長の人間性にほれて、というのもリスキーです。業績が低迷すると、あっというまに社内の雰囲気が悪くなり、リストラ、経営陣の入れ替え、合併・吸収につながるケースも多い。成長性のある会社に入り、その恩恵を受けて自分も成長したい、という人生設計ではなく、自分の人材価値を高めるという目的に向けて、自身がしっかりと手綱を握って転職先を選んでほしいですね」

――自身の12回の転職を総括すると。

「後付けになりますが、私の12回の転職は、(1)仕事を覚えて成長するための転職 (2)仕事の場を得るための転職 (3)ライフスタイルを変えるための転職――の3つに分けられます。10回めの転職までは、(1)(2)の目的での転職でした」

「42歳のとき、定年まであと15年強というタイミングでセカンドキャリアについて考え始め、転職に対する向き合い方も変わりました。60歳以上も働き続ける準備をするため、働き方を工夫する必要がある、との結論に達したのです。『人材価値の向上』という大原則は維持しつつ、それにプラスして、時間、発言、副業を自由にできる職場という条件で転職先を選ぶことにしました」

「直近2回の転職では、これらがかなう職場を探し、経済評論家としての道を歩み始めたというわけです。それぞれの目的に照らした達成度で総括すると『7勝4敗1分け』といったところでしょうか」

――転職を意識するビジネスパーソンが日ごろから心がけておくべきことは。

「キャリアデザインを考える上で一番大切なのは『自分の人材価値を上げること』と認識してほしい。若いうちから人材価値を高めていれば、これまで限界とされてきた35歳以降の転職も問題ありません。また、転職をするか否かは安易に決めず、今の職場では実現できない人材価値を得られるか、を考えてほしいですね」

目指すは「いつでも転職可能な人材」

「『今の職場が嫌だから今すぐ転職したい』と行き先を決めずに退職する人がいますが、これはデメリットしかありません。職歴の空白は人材価値の低下を意味します。次の枝をつかんでから今の枝を離さなくてはサルも木から落ちてしまいます」

「現時点での自分の人材価値を知っておくことも現代のビジネスパーソンのたしなみといえるでしょう。同業他社の社員と緩やかなネットワークをつくり、業界・求人動向、他社の給与水準などの情報を得るのもいいでしょう」

「人材紹介会社のコンサルタントやヘッドハンターに会ったり転職サイトで情報収集したりしながら、自分にはどういったスキルが必要か、どういうポジションに空きが出やすいか、転職した場合どのぐらいの年収になりそうか、を押さえておくことも重要です。実際に転職する、しないにかかわらず『いつでも自分は転職できる』と思えるほどの人材価値を備えておくようにしたいですね」

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表

山崎元氏

1958年北海道生まれ。81年東大経卒。三菱商事に就職した後、野村投信、住友信託、メリルリンチ証券など、12回の転職を経て現職。資産運用、経済分析などを中心に評論活動。著書に「難しいことは分かりませんが、お金の増やし方を教えて下さい!」(文響社)など。

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