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識者インタビュー

長寿企業に「合う人」「合わない人」は? ~300年企業を研究したMBA教授が解説~

長寿企業に「合う人」「合わない人」は? ~300年企業を研究したMBA教授が解説~

日本には創業数百年以上のいわゆる「長寿企業」が多数存在しています。独自の強さを持ち、幾多の困難を乗り越えてきた企業には人材マネジメントにおいても特徴があるはず。どのような特性を持つ人材であれば長寿企業にマッチし、活躍できるのか。創業300年企業に関する著書を持ち、グロービス経営大学院で教鞭を執る田久保善彦教授に話をお聞きしました。転職先を考える際の参考にしてください。

「社員思いの深さ」と「施策の徹底度」が違う長寿企業

――創業から数十年、数百年といった「長寿企業」には、長年培ってきた独特の社風があります。長寿企業にマッチするのはどのような人でしょうか?

2014年に書籍『創業三○○年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』を発行するにあたり、多数の長寿企業の経営者などにインタビューをしました。私は、これらの企業は「社員に対する思いの深さ」と「関連施策の徹底度の高さ」が特徴だと感じています。長寿企業でなくても、企業理念で社員の大切さを説いている企業は数多くありますが、長寿企業は総じて社員への思いが強く、深いのです。

例えば、1637年創業の日本酒メーカーの月桂冠は、「社員の一生を大切にする」ことを掲げています。在職中だけでなく、一生を大切にすると言い切れる企業はあまりないのではないでしょうか。企業活動の1つが退職したOB・OGの物故者法要で、驚くことに50回忌まで行われています。1669年創業の商社、岡谷鋼機も同様。今は親族でさえ50回忌までやることはまれな時代なのに。

物故者法要は一例ですが、そういった企業姿勢に対して違和感を覚えるのであれば、入社はあまりお勧めしません。逆に「そんなにも自分のことを大事にしてくれるんだ」と思うのであれば合うでしょう。

――長寿企業の特徴は他にもありますか?

社員同士のコミュニケーションを高める環境を意識的に作っていますね。長寿企業は独身寮を持っているところも多く、寮生活を通じて同期の絆を強めたり、先輩から企業文化を伝承されたりすることを期待しているのでしょう。古い考え方なのかもしれませんが、同じ会社の人間が同じ時間を共有し、同じ空気を吸って、同じ釜のメシを食べることで価値観を共有していく。これが企業を継続させるために大事だと認識しているから続けているのではないでしょうか。社内のお花見や社員旅行、クラブ活動、運動会などを開催している企業も多数見られます。

――何百年と企業経営が継続してきた秘訣はあるのでしょうか?

様々な要因がありますが、1つは企業経営の目的が成長のための成長ではなく、継続のための成長であると言えます。企業にとって成長は必要なことですが、成長そのものが目的の企業は「今年は前年比で20%伸ばそう。来年は今年より20%伸ばし、その翌年も前年比で20%の成長を……」と考えがちです。毎年20%ずつ伸ばし続けるということは、2年間で44%、3年間で73%の成長。様々な条件が整い、無理なく伸びていけば問題ありませんが、普通に考えれば、20%成長を毎年継続していくというのは簡単なことではなく、組織にゆがみがきて壊れる可能性があります。

長寿企業は事業を続けるための成長、継続を遂げることに主眼を置いています。成長率は年2%でも100年間続ける。事業を続けていくには、無理をしない程度の成長を考えます。寒天食品「かんてんぱぱ」で有名な長野県の伊那食品工業が謳っているのは「年輪経営」。年輪が成長の幅だとすれば、小さくて詰まっているほうが木(=組織)としては強くなるという意味です。成長に対してガバナンス(企業統治)が利き、身の丈にあった成長をしています。

長寿企業は地域への貢献度が高いのも特徴です。経営者が地元の公職に就いたり、多額の寄付をしたり、社員が清掃や文化活動などに積極的に参加しています。地域では社名を「●●さん」と愛称を込めて呼ばれるほど馴染みのある企業になっており、地域との関係性が非常に深く、働く人が誇りを持っているから本業がしっかりついてくる。グッドサイクルが回っており、企業活動が継続していきます。

憧れた転職が失敗するパターンは?

――成長意欲の高い大学院生を対象に教鞭を執っています。転職の相談を受けることも多いのでは?

グロービス経営大学院は全学生がビジネス経験者ということもあり、転職や起業を意識して学んでいる学生も多く、よく相談を受けます。学生に伝えているのは、転職では、会社の個性を知り、自分の特性・強みを知ることが大事ということ。そこがマッチしていないと、入社後にうまく仕事を進めることができません。

例えば、ビジネスにスピード感を求め、短期間で急成長を目指す企業と、成長より事業継承を目指す企業を考えたとき、どちらが自分にしっくりくるのか。長寿企業型の個性を持つ人が、急成長を志向するIT系企業に入社してもうまくいかないでしょうし、急成長型の個性の人が、ゆっくりと、徐々に成長しようとしている企業にいくと、成長が遅いことがストレスになったりします。どちらが自分の肌感覚に合うのか、自分の特性と合わせることが大切です。

グロービスの学生の中には、MBA(経営学修士号)取得後に、ベンチャー企業やできたてのスタートアップ企業に転職したり、起業したりと、給与は少し下がってもマネジメントの幅を広げるため自分のやりたい仕事ができる状況を選択するという人も結構います。良い悪いではなく、安定志向の人がそういうことにチャレンジしようとすると、どこかでバランスを崩します。ベンチャー企業に入社して華々しく活躍することに憧れるのは分かりますが、憧れと自分の特性・強みを生かして活躍できることは全くの別物と冷静に考えなくてはいけません。

コア能力を見失わず生き残る

――産業構造が大きく変化している中で、これからも生き残れる企業とは?

長寿企業に限ったことではありませんが、顧客や競合他社、時代環境に合わせて変化し続けられる企業です。商社はかつて仲介ビジネスをしていましたが、今は投資に主軸を置いています。トヨタ自動車が事業戦略として「車をつくる会社からモビリティーカンパニーへの変化」を掲げたのも、自ら「変わろう」という表れでしょう。

しかし、ただ変化すればいいということではなく、大事なのは自社の本質的な強み(=コア能力)を見失わないこと。例えば、英会話スクールが関連事業としてパソコンスクールを始めるということを考えてみましょう。成功するか失敗するかの1つの要因は、コア能力に拠ると思います。「店舗展開能力や集客能力が優れている」というコア能力を持っていたらパソコンスクールは成功するかもしれませんが、「ティーチング能力を持っている外国人を集めること」がコア能力だとしたら、パソコンスクールを運営してもうまくいかないでしょう。

同じ英会話スクールでも持っているコア能力によって方向性が変わってくる。そこを見極めて経営できるかが大事。「他社がやっているから自社でも」という安易な考えでは失敗する可能性があります。

――長寿企業はコア能力を見失わなかったから事業が続いてきたのでしょうか?

少なくとも今まではそうです。岡谷鋼機は、もともとは鍬などの鉄製品を扱っていた商社ですが、30年以上前にインテルからICチップを輸入して日本へ広めました。同社はコア能力を「鉄を扱うこと」ではなく、「関係性のすり合わせ能力」と認識し、売り手と買い手の間に立って調整することが自分たちの本質的な役割だとしたら、扱う商材は鉄でもコメでもICでも何でもよいと考えたのでしょう。仮に30年前に「コア能力は鉄を扱うこと」と認識していたら、ICを扱うことはなかったでしょうし、同社の歴史は変わっていたはずです。

月桂冠のコア能力は日本酒を製造することではなく、経験をサイエンスする力だと思います。日本酒は冬に杜氏が国内で作っていましたが、今では夏に米国工場で製造しているのです。杜氏の経験に全て頼っていたら日本で冬にしか作れませんが、コア能力を生かして経験を数値に落とし化学的に分析したことで、日本酒だけでなく、バイオ研究など多方面に事業を拡大しています。

これらの事例からも分かるように、いつの時代も企業は変化しないと衰退します。企業を存続させるにはコア能力を認知し、その能力をベースに新しい価値を創造していくことが重要なのです。

グロービス経営大学院
経営研究科 研究科長/常務理事

田久保 善彦さん

慶應義塾大学理工学部卒業、修士(工学)、博士(学術)、スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所を経て現職。経済同友会幹事、新産業革命と規制・法制改革委員会副委員長(2017、2018年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問等も務める。著書:『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』『志を育てる』『これからのマネジャーの教科書』(東洋経済新報社)ほか多数。

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