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識者インタビュー

AI(人工知能)は働き手にとって敵か味方か?

AI(人工知能)は働き手にとって敵か味方か?

AI(人工知能)は企業や働き手にとって敵か味方か-。本格化するAI時代を勝ち抜くためにどのような制度や心構えが必要か。産業界の人材育成や多様な働き方の環境整備を担当する経済産業省の能村幸輝・人材政策室長に話を聞いた。

AI普及、むしろチャンスに

――AIの普及で「近い将来、多くの仕事が消滅するのでは」と悲観論が広がっています。

「AI時代の到来はたしかに人々の働き方に大きな変化を迫る。ただ、すべての仕事がなくなるわけではない。単純作業や想像性を伴わない仕事はAIに置き換わっていくが、モノづくりや様々なサービスにAIをいかに落とし込むかを考えたり、課題を見出したりする業務は人間ならではの仕事として残るだろう」

「現在は第1次、2次、3次産業革命に続く第4次産業革命とも言え、変化の大きさや影響を受ける仕事の多さという意味ではこれまでで最もインパクトが大きいかもしれない。変化に無縁の業種は皆無で、それゆえ『AI脅威論』が広がっているが、革命があってこそ生まれるイノベーション、チャンスは数多い。やみくもに恐れるのではなく、変化対応力を身につけた人材に新たな活躍の場が生まれる時代、と前向きにとらえて欲しい」

――企業の人材戦略に与える影響は?

「高度成長時代のように比較的似たタイプの人材を新卒で一括採用、終身雇用した『昭和の人生すごろく』はもう通用しない。各企業は変革の時代における方向性をまず定め、それに向けた人材戦略を立てる必要がある。変化への対応という意味では多様性の確保が何よりも重要だ。(同種の人間を集めるのではなく)異質な人間を組み合わせたときにイノベーションが生まれ、変化に強い企業となりえる」

「たとえば、最近米国では、心理学や美術、文学など一見すると先端技術とほど遠い分野の人材が産業界で活躍し高収入を得ているというデータがあり、実は非AI分野での専門人材の重要性は増している。新卒一括採用ではこういった分野の人材は重用されにくかったかもしれない。今後は中途、経験者採用含め、複線的な採用ルートの構築が必要だ。企業は採用において『人材をいかに囲い込むか』という考えから脱却し『いかに優秀な人材をひきつけるか』という考えにシフトしないといけない。多様な働き方の推進や人材への積極投資など、様々な要素で魅力的と思われる会社こそが組織の多様性が増し、ひいては企業競争力も高まる」

学びのカギはインセンティブの仕組み化

――企業による人材投資という点で、昨今注目の「学び直し」に関する支援はどうあるべきか?

「学ぶ意欲が全くない、というビジネスパーソンはほとんどいない。にも関わらず、実際に『学び直し』に取り組んでいる人はまだまだ少ない。肝心なのは、学ぶインセンティブを組織として仕組み化することだ。従来、自主的に学ぼうとする人がいても、そのために早めに退社すると『暇なのか』と白い目で見られることも多かった。最近は働き方改革の影響で早めに退社しやすい環境ができつつあるが、学びたいという社員を積極的に周りが応援するのはもちろんのこと、ビジネススクールなどで学んだ専門性やスキルを会社が評価し、仕事や賃金等に反映するというインセンティブの整備が重要だ。これができている企業は現状ではごく一部にすぎない」

「学びを経験した人材が増えれば、人材の多様性が増し、新たなかけ算によりまた新たなイノベーションが生まれ、企業の競争力も高まる。経営トップが学びの必要性を自ら発信し、インセンティブの仕組みを作り、身近に学びを経験したロールモデルを増やすー。これらを実現して初めて社員の学びのサイクルを定着させることができるのではないか」

――個人(ビジネスパーソン)としてはどう対応すべきか?

「これからの時代に一番大切なのは『変化対応能力』。どの業種でも変化が断続的に続く時代に突入しており、自分を1回アップデートしたから大丈夫、ということにはならない。変化を継続できる、もしくは非連続的な変化に対応できる能力を身につける必要がある。そのために個人がまずすべきは『学び続けること』。社外で得たスキルや知識は、日々の業務に役立つだけでなく、兼業や副業、転職など今後の自分の可能性を高め、活躍できるフィールドを広げるきっかけにもなる。また、一つの組織だけに所属していた人と複数の組織、職場で働いた人を比べたところ、60歳以降に働いている比率が後者のほうがが高かったという調査結果もある。人生100年時代、人生をより実り多いものにするためにも、積極的に学びにチャレンジしてほしい」

経済産業省経済産業政策局 産業人材政策室長

能村 幸輝さん

2001年、経済産業省に入省。人材政策・税制担当、エネルギー政策・資源外交担当、原子力被災者支援担当、大臣官房総務課政策企画委員などを経て、18年より現職。経産省の人材政策の責任者。テレワーク、副業・複業、フリーランスなど「多様な働き方」の環境整備、リカレント教育・AI人材育成、HRテクノロジーの普及促進などを担当。