ビジネスパーソンのキャリアアップ・転職について考えるニュース・コラムサイト

異文化?いい文化!

第13回 人こそ人の鏡

第13回 人こそ人の鏡

 これまで12回にわたって、異文化から学べるビジネスヒントを考えてきました。今回は全体を振り返り、日本のビジネスパーソンが今後、異文化とどう向き合うべきかを考えてみましょう。

日本語の言語特性を知ろう

 打ち合わせや提案などビジネスにおいて話された内容は大変重要なものです。いつどこで何が起こるのかという事実の部分は、確認が欠かせません。しかし、日本語は「高コンテクスト依存言語」と呼ばれ、主語をはじめとして共有している情報を言語として表すことを避ける言語です。だからこそ、英語ならずとも他の言語話者と話すときには、あえて5W1Hを意識して、それらを言語で表現して話すことが、まずは求められます。
 一方、ビジネスでの付き合いを含め、言語理解で最も難しいのは、対人関係に関わる依頼を中心とした、いわゆるモダリティー表現です。頼み方ひとつで、無理なことでも聞いてもらえたり、反対に相手を怒らせたりすることもあります。多様な依頼表現をもつ日本語は、外国人にとって、その点で難しい言語となるわけです。
 はっきり断るときにも違いが見られます。いったん感謝をしてから断る英語話者に対し、日本人が英語で話すときは、「断る」ことに重点を置きすぎて攻撃的になることもあります。日本語が上手な韓国人が「おいしい料理を作ってくださいね」と頼むように、日本人なら頼まないことを外国人が頼んでくることもあります。話し手への利益提供を求める依頼表現はコミュニケーション上、最も気を遣う表現です。寛容さをもって異文化と接していくことを忘れないようにしましょう。

パラ言語や非言語情報にもご用心

 言語内容だけでなく、声の高さのようなパラ言語も文化によって異なります。日本人を含むアジア人は、特に女性の声が高いと言われます。西洋では声の高さが幼さを表すところもあるので、明瞭さを確保しながらも意図してトーンを低くするなども、国際的なビジネスの局面では重要となってきます。
 また、視線や身振り手振りなど言語に伴う非言語情報も、言語内容と同様に異文化摩擦を生じやすいものです。ベトナムのように視線を合わせることが失礼になる文化や、手招きしたつもりが「あっちへ行け」と捉えられるように、ハンドサインの意味が日本と異なる文化もあります。
 パラ言語も非言語情報も、すべて個別に理解することは難しいでしょう。相手にまずは確認するように努める必要があります。

 昔は、留学など外国に出て行かないと接することの少なかった異文化ですが、今や外国人の住民が人口の2%を占め、それ以上に海外からのビジネスパーソンや観光客をお迎えする時代となりました。その際に陥りやすい誤解や理解齟齬は、英語が話せれば解決するというものではありません。
 だからこそ、この時代の日本人に英語力以上に必要なことは、多様性を理解しようと努める態度であると考えます。日本語・日本文化に誇りを持ちながらも、同時に異文化を尊重する姿勢こそが、平等な異文化交流をもたらします。
 異文化は、母文化の鏡です。「あたりまえ」を見直すきっかけにしてみてください。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。昨年4月から今年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。