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異文化?いい文化!

第11回 外国人の日本語にカチンとくるとき、こないとき

第11回 外国人の日本語にカチンとくるとき、こないとき

 一昔前は日本語ができる外国人が珍しく、ちょっと日本語を使うと「あなたは日本語が上手ですね」と褒めていましたが、最近はずいぶん変わりました。日本語を流暢に話す外国人も増え、日本語で話しかけられているのに「アイ・キャント・スピーク・イングリッシュ」と慌てるなどという笑い話も、もう時代遅れなほどです。

 多種多様な文化が当たり前のように根付きつつある日本だからこそ、許せない日本語に、時として目くじらを立ててしまうこともあります。

日本語が上手な外国人には同様の振る舞いを期待しがち

 韓国語を習っていたとき、教科書に書かれていたのか先生の話だったのか忘れてしまったのですが、韓国人は鮮魚店で「おいしい魚をください」という言い方をすると目にして(耳にして)驚いたことがあります。日本の鮮魚店で、そのまま日本語で言ったら、どう思いますか。私が魚屋の主人だったら「うちでは、まずい魚なんて扱ってないねぇ!」と、気を悪くするでしょう。
 買い物はスーパーで済ますとしても、韓国人のビジネスパーソンをホームパーティーに招いて、何も前置きなく「おいしい料理を作ってくださいね」と言われたら、やはりムッとするでしょう。流暢な日本語なら、なおさら怒りがこみ上げてくるかもしれません。
 カタコトの日本語なら許せても、ペラペラとそう言われたら怒ってしまうのには理由があります。日本語が上手な外国人には、日本人同様に振る舞うことが期待されてしまうからです。しかし韓国では、このような言い方が自然なのだそうです。

言語と振る舞いとのギャップを理解するのは難しい

 反対に、日本人が西洋で戒められるのが、 「I’m sorry.」のウカツな使用です。例えばロンドンやニューヨークの繁華街で、大勢の人がごったがえすなかでぶつかったときなど、日本人ならすぐに「I’m sorry.」と言ってしまいそうですが、外国では自分に非があることを認める言葉として「I’m sorry.」の類いは使わないことを推奨されます。
 しかし、外国人が日本で同じことをすると、やはり問題となります。「日本語が上手なはずなのに、ぶつかってきておいて『すみません』の一言もない」などいう話は、よく耳にします。
 2つの例に共通するのは、母文化の習慣を日本語で表現するギャップです。たどたどしい日本語は、そのギャップを緩和してくれますが、流暢な日本語は日本文化の振る舞いを要求します。流暢な日本語を話すからこそ、その言語と振る舞いとのギャップを理解すること、あるいはギャップがその話者の母語によるものであると斟酌(しんしゃく)することは難しいのです。

流暢な日本語を話す外国人でも、母語の習慣で振る舞うときがある。一呼吸置いて「それ、あなたの国ではどういう意味なの?」と尋ねてみるのも一案。

 日本でも頻繁にお礼を言う関西と、そうではない東日本とでは文化が違います。風習も文化のうちと、多様性を理解し合う寛容さが大切です。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。昨年4月から今年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。