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異文化?いい文化!

第9回 「ホウレンソウ」のおいしい調理法

第9回 「ホウレンソウ」のおいしい調理法

 外国の人たちと仕事をする機会が増えてくると、異文化を念頭に置いたコミュニケーションが大切だと言われることも増えてきます。実際、どのようなコミュニケーションが必要なのでしょうか。
 飲酒や肉食を含め宗教の話はもちろん、仕事とプライベートをはっきり分ける外国人には、日本人の伝統的なアフターファイブの「飲みニケーション」の強要は理解できない場合が多く、避けたほうが無難と言えます。
 仕事で、より深刻な問題となりえるのがコミュニケーション不足であり、それは報告・連絡・相談、いわゆる「ほう・れん・そう」に対する態度です。

外国人にとって「ホウレンソウ」はまずい?

 私が関わっているある文化研究会には、海外で技術者として働いてきたという方が大勢参加していらっしゃいます。事故が起こるような現場では、こちらが指示した内容が十分に伝わっておらず、問題も報告されてきていなかったということがよくあるのだそうです。
 それは、決して英語を介して行う言語理解が十分でなかったというだけでなく、情報共有がうまくされている状態になかったということです。その原因の一つに「ほう・れん・そう」に対する態度の相違があります。マネジメントする日本人の技術者が日常的な「ほう・れん・そう」を求めても、現地のスタッフは、いちいち報告させようとすることに違和感を覚えることが少なくありません。このまずい「ほう・れん・そう」によるコミュニケーション不足の結果が、結果的に事故につながるわけです。
 特に欧米では、仕事を個人単位でこなします。会社に報告し、指示を仰ぐのは遂行能力のない証拠となり、担当を変えられてしまうこともあります。会社全体で事を進めようとする日本のビジネスパーソンは、半人前にすら思われてしまいます。ましてや、日本人がこのような「ほう・れん・そう」を重要な「コミュニケーション」と捉え、押し付けたりすると、かえって責任を不明確化させ、やる気を減退させるなど、悪い結果を招くことにもなりかねません。

「ホウレンソウ」も調理次第で効果抜群?

 この「ほう・れん・そう」に対する考え方の違いは、文化の違いです。基本的に農業社会である日本は、集団で農作業をしなければ生きていけない社会として成り立ってきた歴史があります。農作業時には、集団で歌を歌い足並みをそろえながら作業をします。一方、欧米のような狩猟社会では、もちろん共同で行う狩りもあるでしょうが、基本的には結果に対し個人が責任を持つもの。歌など歌っている余裕も必然性もありません。このように、集団主義と個人主義とではコミュニケーションの基本様式に対する考え方が違います。

 しかし、集団主義と個人主義は、あくまでも文化的違いであり、決して優劣ではありません。それは、日本的な集団主義がある時代に成功してきたことにも裏付けられます。日本では(あるいは日本企業が仕切る現場では)、外国人の社員がいても集団主義が成果を上げることもあるでしょう。組織として成果を挙げようとする集団主義と、組織での上意下達を半人前と感じる個人主義とがぶつかるような場面に向き合ったときには、「報連相」を横方向に置き直してみましょう。同僚として相互にいつも情報共有をしあう態勢をつくっていくのが効果的になるはずです。まさにホウレンソウをいかに調理するか、おいしくする(良好)のもまずくする(険悪)のも、皆さんの手の内次第なのです。

コミュニケーションは双方向。共有すべき情報は共有し、チームで互いに時宜を得た「報連相」をすべし。

 硬直化し形骸化した「ほう・れん・そう」は、外国人の社員のみならず日本人の社員であっても辟易します。野菜だって旬を逃せばまずくなりますし、形だけを重視すれば安全性が心配になるもの。情報共有のルールは柔軟に、そして、誰もが判断能力を育てられる「ほう・れん・そう」を心がけましょう。
 蛇足ながら、冷蔵庫に入れたホウレンソウは縦置き保存が長持ちのコツらしいですよ。Buon Appetito!

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。昨年4月から今年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。