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異文化?いい文化!

第4回 「~~~過ぎ」にはご注意を

第4回 「~~~過ぎ」にはご注意を

 グローバル化が叫ばれながら、実際には海外への出張や駐在の必要性があったり、留学を希望したりしない限り、なかなか外国人と接する機会はないのが一般的だと思います。ただ、国内の労働人口の減少などを鑑みれば、今まで以上に外国人との協働が様々な場面で不可欠になると考えられます。
 このコラムでは、より身近になるであろう異文化に対する理解を少しだけでも深めていただき、今後のビジネスなどで生かしてもらえるよう、日本と様々な国・地域の文化や習慣の違いを、言葉の使い方、コミュニケーションの取り方をメーンに紹介していきます。

ぞんざいな表現は万国共通

  人間の言語行為の中で、もっとも丁寧さに気を付けなければならないのが、「頼む」という行為です。話し手の利益のために他者に行為を促すのですから、頼み方ひとつ間違えれば相手の気分を害し、自分自身に不利益なことも降りかかってきます。

 この依頼表現は、その配慮を反映して、多くの言語で丁寧な表現からぞんざいな表現まで、さまざまな表現形式が見られます。もっとも単純でぞんざいな表現は万国共通で、「水!」や「起きろ!」のように短く言い切る表現です。英語では、 ‘please’を付ければなんとか失礼にならないようで、 ‘thank you’とともに、子どもがまず覚えるべき「魔法の言葉(magic words)」と呼ばれています。私もイギリスでのホームステイで、ホストマザーから教わりました。ドイツ語の ‘bitte’ やイタリア語の ‘per favore’なども同様です。

 しかし、実際に ‘Water, please.’などと言うことができる場面は限られています。レストランなどでは許されても、取引先などで薬を飲むときなどに「頼む」場合には、‘Can I have water, please?’のように、より丁寧な表現が用いられています。商談で頼みにくいお願いごとをする場合には、英語も日本語同様になおさら配慮が形式の複雑さに表されます。
 一般に日本人は、英語のほうが簡略化された表現を好むと思い込んでいます。しかし、過剰に一般化しすぎて簡素な表現を使うと失礼になることもあるので注意が必要です。

一定の配慮は欠かせない

 さて、日本語ではどのように頼んだり、断ったりしているでしょうか。例えば「あの……」など言いよどみながら話を切り出し、「いま、抱えている業務が煩雑になっていまして……」などと遠回しに窮状を訴えつつ先輩や上司の顔色をうかがい、「明日までに提出するように言われている書類、少し待ってもらえませんか……」と本心を言うまでに、かなりの時間を要していませんか。
 仮にここまで回り道をすると、さすがに日本人でも焦れます。頼みづらいことを切り出すときは何かと逡巡すると思いますが、それだけに「ほどほど」の言い方がいちばん難しいのです。

「頼む」ことと「断る」こと。人を動かすこの2つの表現は、最も人への配慮を必要とする表現。聞き手への配慮を忘れずに

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部シニア教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。昨年4月から今年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。