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企業インタビュー

文学部卒がAIベンチャー 技術者と一緒に課題解決

文学部卒がAIベンチャー 技術者と一緒に課題解決

ラボロ・エーアイの寺田響さん

大手企業とは異なる魅力にひかれ、ベンチャー企業への転職を考える人が増えています。すでにベンチャーへの転職を果たした人へのインタビューを通じ、新興企業で働く醍醐味や活躍する人材像を紹介する連載。第4回は人工知能(AI)を使い企業の課題解決に取り組むLaboro.AI(ラボロ・エーアイ、東京・中央)の寺田響さんです。

――大学では文系でしたが、どのようなキャリアを目指していましたか。

「社会学を専攻し、中学か高校の先生を目指していました。当時、郵政民営化など規制緩和の大きな動きがあり、教師となるよりも、民間からの方が教育改革の一翼を担えるのではないかと考え、教育サービス会社に入社しました」

「配属されたのは通信教育の教材の企画・販売促進を担当する部署でした。データを駆使して販促策を考え、ダイレクトメールやウェブサイトを使って潜在顧客にアプローチする仕事です。教育現場に近い職種を希望していたので、しっくりこない部分もありましたが、データをもとに課題解決を探ったり、新しい発見をしたり、ここで、社会人としての基礎を培うことができたと思います」

寺田響さん

1985年生まれ。2008年慶大文卒、大手教育サービス会社入社、通信教育のマーケティングや新規サービス立案を担当、14年に介護・保育子会社出向。16年大手人材サービスのグループ会社に転職し、ビッグデータや機械学習を使った企画開発業務に従事。18年Laboro.AI(ラボロ・エーアイ)入社

――入社から4年、新規事業メンバーの社内公募に応募します。

「通信教育の課題は顧客である会員との距離が遠いことです。塾などであれば直接、ニーズや不満を探り、サービスの質を高めることができます。われわれも顧客との接点を増やすべきだとの強い思いがありました。また、教育現場から遠く、会員との接点が少ない仕事に、内心じくじたる思いを抱いていました」

「そんなとき、地域密着型の新規事業を立ち上げるというので、迷わず手を挙げました。通信教育の付加価値を高めるために会員との接点を増やす事業で、会員と面会したり、オンラインで双方向授業をしたり、さまざまな方法で利用者の声やニーズを集めました。この新規事業は本社の教材づくりやサービス拡充に役立てることが目的でしたが、私自身としても『顧客との接点が少ない』と悩んでいただけに充実感がありました」

データのゼネラリスト目指し、転職決める

「ただ2年ほど後、会社は実店舗の大量出店に舵(かじ)を切ります。私も店舗運営に回ることになりました。会社員である以上、会社の方針に従うのは仕方ありませんが、大切に育ててきた新規事業を取り上げられるようで釈然とせず、異動希望を出しました」

「異動先はグループの介護子会社で、老人ホームのマーケティングや営業企画、広告制作を担当しました。もともと介護は興味があった分野で、一度関わってみたいと思っていました。役員報告の機会も多く、膨大なデータから事実を見つけて説得力のある根拠を積み上げるスキルを養うことができました」

――異動から約2年半で転職しました。

「ちょうど、ビッグデータやデータサイエンティストといった言葉が聞かれるようになった時期で当時私は31歳。このまま教育と介護のデータを扱う、限られた分野の専門家になるのか、幅広いフィールドでデータを使った仕事をしていくのか――。人生の岐路に立たされた気がしていました。『さまざまなことに挑戦したい』という思いが強く、専門家タイプではなく『ゼネラリスト』と自覚していましたし、データを使った多様なマーケティングの経験を積むことが大きな武器になると考え、『転職したほうがよい』と結論づけました」

「転職先は大手人材サービス系列のデータベース会社で、人材紹介会社の紹介でした。ビッグデータの分析部門で、データをマーケティングに活用してビジネスにつなげていく部分を担当しました」

「今の仕事を通して『ビジネスと技術』をつなぐ役割の重要性やその難しさを感じているので、いずれはそうした人材の育成やチームづくりに取り組んでみたい」

――2つ目の会社は約1年半で辞めました。

「文系の人間にとってハードルが非常に高かったといえます。まわりはデータエンジニアやデータアナリストといった理系人材がほとんどで、専門用語を理解しないと、打ち合わせで何を話しているのかも分かりません。システムで問題が起きたとき、作業は専門家に任せるとしても、少なくとも何がどうおかしいのか、どう対処すべきかは、理解しておかないといけません。文系ならではの苦労が多々ありました」

「2つ目の会社に入社して約1年後、将来に備えて登録していた転職サイト会社から『一度お会いできませんか』と連絡がありました。その会社との面談だと思い、軽い気持ちで同意しましたが、実際はラボロ・エーアイとの面会とわかり、少し焦りました」

「共同創業者の2人と会ってみると、AIとビジネスの両方に精通していて、すっかり魅了されてしまいました。当時の同僚にAIにたけた人材はたくさんいましたが、AIとビジネスの両方の知識を兼ね備えた人材はほとんどいません。ロールモデルを探しあぐねていたところだったので、印象的な出会いとなりました。この面会を経て、『この人たちと働けば、理想とする人材になれるのではないか』と、気持ちが転職に大きく傾きました」

新規事業立ち上げの面白さが忘れられなかった

――当時のラボロ・エーアイは創業3年目で社員は4人でした。大手企業からスタートアップへの転職に不安はありませんでしたか。

「もともと2つ目の会社に骨をうずめるつもりはなく、3、4年経験を積んだ上でベンチャーへ転職しようと心に決めていました。1社目で新規事業を一から立ち上げた際の面白さが忘れられなかったからです。そうしたことから転職では、創業間もないスタートアップを希望していたので、ラボロ・エーアイはぴったりでした」

「会社はすぐにではなく、1年ほど後に入社する選択肢も提示してくれましたが、『一から仕事をつくるプロセスを経験するには今がベスト』と腹をくくり、面会から2、3カ月で入社を決めました。年収がこれまでの大手2社とさほど変わらなかったことも安心材料でした。1回目の転職時は心配していた両親も2回目とあってか特に反対もせず、応援してくれました」

――現在、どのような業務を担当していますか。

「顧客企業の課題を整理し、AIを使った解決策を提案したうえで、導入支援に取り組む『ソリューションデザイナ』という仕事です。聞きなれない職種だと思いますが、営業とコンサルタント、プロジェクトマネジャーを兼務しているようなイメージです」

――どのようなタイプの社員が多いですか。

「平均年齢は30歳代後半で、スタートアップにしては少し高めです。エンジニアが大半ですが、最近はソリューションデザイナも増えています。創業初期の『アーリー』段階で入社した人ばかりなので、指示を待つのではなく、自分で切り開いていくタイプが目立ちます。会社の体制や将来についても、自らの課題として考え、関わっていこうという雰囲気にあふれています。また、会社の『信念』として『テクノロジーとビジネスをつなぐ』をかかげており、共同創業者もそれを体現するような存在なので、エンジニアでも技術一辺倒ではなく『技術をいかにビジネスに落とし込むか』に関心の高い人材が多いです」

――今後のキャリアをどう考えていますか。

「『将来、もっとこういう仕事をしてみたい』という思いはいくつかありますが、具体的にいつまでに転職をしたいとか、逆にいつまでこの会社にいたいといった明確なものは定めていません。この先どういうキャリアを歩むにせよ、AIやデータ活用、あらゆるモノがネットにつながる『IoT』といったテーマは今後、あらゆる企業の業務に一段と浸透していくことになると思うので、今は目の前の顧客の課題解決にベストを尽くすことが、自分の市場価値を高める最善の選択肢だと思っています」

「一方、今の仕事を通して『ビジネスと技術』をつなぐ役割の重要性やその難しさを日々感じているので、いずれは社内外問わず、そうした人間の育成やチームづくりといったテーマに取り組んでみたいという希望もあります」

人事担当からひとこと

椎橋徹夫CEO

2018年から中途採用を開始し、寺田さんは「ソリューションデザイナ(SD)」で初の転職者でした。評価のポイントとなったのは、前職でグループ各社のデータをビジネスにつなげる業務を担当していたことです。SD業務は顧客企業のビジネス上の課題を見極めて、ソリューションを提案し、エンジニアと一緒に課題解決をはかるもので、前職の業務と少し似ていました。

当社の仕事はエンジニアとSDが柱です。18年度の採用は5人、19年度は7人で、今後も積極的に採用したいと考えています。選考で重視しているのは、ビジネスとAI技術の知識を持つプロとして腕を磨いていく覚悟とやる気がある人材かどうかということです。エンジニアについては、優れた技術を持つだけでなく、AI技術を通じて生み出した製品が世の中にどのようなインパクトをもたらすか、まで広く考えられる人が理想です。

SDとして働く転職者では、寺田さんのように会社でデータやテクノロジーを使った企画業務に携わってきた人が多いほか、IT系のコンサルティング会社で企業課題の解決提案に取り組んできた人もいます。IT系の販売会社で提案営業に携わっている人材も活躍できると思います。まだ新しい職種なため、プロの卵を見極めて採用し、丁寧に育成することが重要だと考えています。

Laboro.AI(ラボロ・エーアイ)
2016年設立。従業員は20人。AI活用に関する企業向けコンサルティングが主力で、顧客ごとにカスタマイズするAI技術を使った業務支援システムの開発・提供が特徴。