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攻める中小企業 勝負の一手

第10回 業績不振からはい上がるべく、社員一丸でぶれずに結集

第10回 業績不振からはい上がるべく、社員一丸でぶれずに結集

 国内には現在、約380万社の企業があり、このうち中小企業に分類される会社は99%以上を占めます。国内の経済基盤を支え、地域経済の活性化を担う、日本経済の「根幹」 ともいえる中小企業には、長年培った伝統を生かして年月を重ねている会社もあれば、最新のIT(情報技術)システムを導入し、独自の経営戦略を打ち出して事業展開をしている会社もあります。
 この企画では、資金や人材が限られる中でITの利活用に積極的に取り組んだ結果、一定の成果を上げ、経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選」に選ばれる理由となった活動事例を基に、将来を見据えてしっかりと前を向く中小企業について焦点を当てます。
 今回は2億円以上もの思い切ったIT投資を行い、自社が持つ産業建築物の金属屋根の接合金具の開発技術やノウハウを生かして、他社に先駆けて屋根上にソーラーパネルを安定設置する金具を開発。さらに企業からの引き合いに対しても迅速かつ柔軟に対応することで、販売拡大につなげたサカタ製作所をクローズアップします。

会社の窮地を救った太陽光ビジネスの幕開け

 太陽電池を複数個つなげて使用するソーラーパネル。太陽光をエネルギーとして直接電気に変換できる太陽光発電は、東日本大震災後の原発停止と電力供給不足により急激に増加した。サカタ製作所は公共産業用建築物(工場や倉庫、体育館、空港、コンビニなど非住宅用建築物)の金属屋根の接合金具の開発技術やノウハウを生かし、ソーラーパネルの取り付け金具・架台を他社に先駆けて開発したパイオニアだ。

 同社の創業は1951年。特殊な技術が求められる産業用建築物の金属屋根鋼板の接合金具のトップメーカーとして知られ、国内で50%以上という驚くべきシェアを誇る。一見すると順風満帆のようにも思える同社だが、建築確認申請の厳格化を盛り込んだ建築基準法の改正のため、工期が長期化する傾向が強まり、受注減に加え、2008年のリーマンショックの影響により、30%も減益となるほど業績が悪化。08年12月期から3期連続で赤字決算が続いた。

 「景気低迷が続き、企業が設備投資を控えた状態では、主力商品である屋根金具の売り上げは伸びない。社員の士気も下がるばかりで、会社を元気にするにはどうすればいいかと悩む毎日だった」と、ITシステムを管掌する小林準一総務部長は当時をそう振り返る。

 赤字決算に陥ったのと時を同じくして、ソーラーパネルメーカーから金属屋根を知り尽くす同社に、ソーラーパネルの取り付け金具・架台の開発が打診された。同社はこれをビジネスチャンスとしてとらえ、建材事業に継ぐ第2の柱とし育成していくことを決意。技術力を結集し、社員一丸となって開発を行った。

 09~11年の3年間は赤字経営が続いたが、我慢の経営を貫いた。その間、太陽光ビジネス業界での認知度を上げるべく、ウェブサイトを刷新し、一般的な製品カタログ情報掲載型ではなく、データベース機能を充実させた。取引先が簡単に製品情報(簡易図面や施工要領書など)をダウンロードできるようにしたほか、女性社員が手作りでブログを立ち上げ、メールマガジン、フェイスブックを活用。自社技術・新製品情報・最新トピックスなどの発信を積極的に行い、集客を計った。東日本大震災が起きたのはちょうどその頃だった。

大量注文による設計部門の残業増加で改革決意

 東日本大震災の影響による原発停止と、その後の国のエネルギー政策の見直し・再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の施行により、太陽光発電の需要が急増すると、ソーラー発電設置架台・部品の見積もり・注文も急激に増加した。

 同社にとっては起死回生の好機となるはずだったが、予想を上回る大量注文にうまく対応ができず、通常では数日~10日ほどの納期のはずが、フル生産で稼働しても、客への納品は2カ月待ちという状態に陥った。「部品数量の算出やCAD(コンピューターによる設計)で作成した図面を必要としていたため、見積もりの依頼を受けてから客に提出するまでには3日を要し、営業部門も設計部門も慢性的な残業増加でパンク寸前だった」と樋山智明ITシステム課長は、当時の混乱具合を明かす。

SaQSは常に使用環境の検証、改善を行っているSaQSは常に使用環境の検証、改善を行っている
 状況を改善するため、ITシステム課が指揮を執り、外部のシステムサポート会社の協力も仰ぎつつ、14年に「快速見積システム SaQS(サックス)」を開発・導入する。客に専門知識がなくても、必要な情報(金具の種類や屋根の位置など)を入力さえすれば、即座に見積書や図面をダウンロードできるようにした。

 SaQSは気象情報システムとも連動し、設置場所の気象状況の判断も行えることから、風害・雪害・塩害などを想定したカスタマイズ製品の提案も可能だ。「1000万円以上の投資だったが、丸3日は必要だった作業が、わずか5分程度で図面までダウンロードできるようになった。顧客満足度を高めただけでなく、失注リスクや残業時間を減らすことにもつながった」と、小林準一総務部長はSaQS導入による効果を実感している。

 その少し前の12年からは、営業情報を共有することを目的に「クラウド型グループウエア Office365」を導入。社内の情報共有とコミュニケーションの効率化にも力を注いでいる。施工検証では起きなかった現場での問題点や注意点をまとめ、それを同クラウドの機能の1つであるYammer(ヤマー)に公開。施工性を良くするためのノウハウを関係部署全体で共有するといった具合だ。

 他部署から問い合わせがきても、チームで情報を共有しているので、担当者が不在でも対応できる。携帯からもチェックできるので、出先からわざわざ会社に戻ってメールをチェックする必要もない。Skype for Businessという機能を使えば、自分のパソコンで図面を表示し、電話の相手とデスクトップの共有図面を見ながら会話ができ、大阪と東京など他拠点にいてもリアルタイムでやり取りができる。ここまで利便性が高まると出張の必要もなくなるため、出張費の大幅な削減にもつながっている。

社長が残業ゼロを宣言、削減の成果は賞与で還元

 同社は14年に坂田匠社長が「残業ゼロ宣言」を行い、ICカード式の勤怠管理システムを導入している。旗振り役の総務部門では残業時間のデータを見える化し、ITシステム課チームは各部署の現状を分析し、慣れきった業務手順を一度振り返らせ、定型処理のシステム化を行った。

 その結果、残業代はピーク時(13~14年)に比べ、約3700万円減少。残業代が減れば手取り給料は目減りするが、残業時間削減の成果を全額社員にボーナスとして還元して、モチベーションの維持に配慮している。

 樋山智明ITシステム課長に今後の抱負を聞くと、「IT化によって生み出された貴重な工数は、会社の未来に役立つことに使いたい」と非常に前向きな答えが返ってきた。蓄積した情報は整理して標準化し、顧客の意見や要望を反映するなど、次の製品開発や改良につなげることも考えているという。IT部門を中心としたチームが組織横断的に動き、プロセス全体を洗い出し、会社全体の仕組みをつくり上げて全体を引っ張っていくことが、攻めのITを成功させる近道といえる。

責任者の声

豪雪地として知られる新潟県長岡市が本拠地。冬場は除雪作業が欠かせない。大まかなところは外部の除雪業者に頼むそうだが、駐車場や社員通路など細かい箇所は、除雪車の運転免許を取得している社員で「サカタ除雪チーム」を結成し対応している。タイヤショベルを運転するメンバーに、3人の女性の事務員が含まれているのは目を引く。その際にもヤマーをフル活用し、除雪作業に関する情報をアップし、情報を共有しながら一丸となって雪対策に取り組む。こんなところにも全体最適を徹底している同社の姿が読み取れる。

勝負手

  • ウェブサイトの全面刷新(簡易図面や試験データ・施工要領書までも公表し、ダウンロードできるように整備)
  • 旗振り役の総務部門で、部署別の残業時間のデータを見える化
  • 見積書や図面を顧客に即座に提供可能な「快速見積システム SaQS(サックス)」の開発
  • 気象データベースと情報システムを連動し、風雪・塩害・雪害など設置場所の気象状況を想定してカスタマイズできる製品の提案など
  • コミュニケーション活性化を目的としたOffice365の導入と活用

結果

  • アクセス数が大幅に増加し、さまざまな製品や技術情報などの検索力が高まった。
  • 残業時間の大幅な短縮(帰宅後の自由時間増加)
  • 過去5年間の売上高の伸びは約1.4倍となり、新規顧客獲得も約1.6倍となった。
  • 顧客からの引き合いに対して、迅速かつ柔軟に対応(3日かかっていた作業をわずか5分に短縮)することで販売も拡大。
  • 社員間通話で客からの回線がふさがるなどの電話・メールのデメリットを補完し、営業・製造間の業務連絡の効率化などにつなげた。
  • 技術ノウハウの共有から設計手法を標準化し、開発スピードアップにつなげた。

会社概要

社名:サカタ製作所
住所:〒940-2403 新潟県長岡市与坂町本与坂45番地
事業内容:製造業
http://www.sakata-s.co.jp/

攻めのIT経営中小企業百選

【攻めのIT経営中小企業百選】とは

ITの効果的な活用に積極的に取り組み、製品やサービスの付加価値を高め、競争力を高めている中小企業をベストプラクティスとして選定する経済産業省の取り組み。2015年から3年間にわたって1年ごとに数十社ずつを選び、今年5月に合計100社を選定した。

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