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攻める中小企業 勝負の一手

第9回 複数のサプライヤーが手を組み、新潟から世界に羽ばたく

第9回 複数のサプライヤーが手を組み、新潟から世界に羽ばたく

 国内には現在、約380万社の企業があり、このうち中小企業に分類される会社は99%以上を占めます。国内の経済基盤を支え、地域経済の活性化を担う、日本経済の「根幹」 ともいえる中小企業には、長年培った伝統を生かして年月を重ねている会社もあれば、最新のIT(情報技術)システムを導入し、独自の経営戦略を打ち出して事業展開をしている会社もあります。
 この企画では、資金や人材が限られる中でITの利活用に積極的に取り組んだ結果、一定の成果を上げ、経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選」に選ばれる理由となった活動事例を基に、将来を見据えてしっかりと前を向く中小企業について焦点を当てます。
 今回は優れた技術力を武器に、中小企業4社による共同工場で特殊工程を含む「多工程一貫生産体制」を構築し、世界で戦える航空機エンジン部品の製造を行うJASPAをクローズアップします。

航空機産業が求める複数サプライヤーによる「一貫生産・供給体制」

 格安航空会社(LCC)の台頭などで、座席数が世界的には座席数が50~100席程度の小型機をはじめ、200人程度が乗れる中型機の需要が拡大している民間航空機市場。各国が新規参入を目指し、開発競争が激化している。三菱重工業が2008年から開発を本格化した国産初のジェット旅客機「MRJ」はその代表例だ。世界の航空機市場の将来需要は、特にアジア・太平洋地域での増加が予想され、今後20年間で世界の航空機旅客数は約2倍に伸びるといわれている。

 成長分野にありながらも、世界的な受注競争の激化に直面する日本の航空機産業では今、発注形態に変化の兆しが現れている。航空機産業では安全性が最優先され、厳格な品質管理が求められるため、品質管理体制などに弱点を持つ中小企業の直接参入は難しい。国内重工などのメーカーは長年、材料や治工具を自ら調達し、処理や組み立てといった単一工程を受け持つ加工メーカー(協力会社)との間を、何度も行き来しながら製造を行う「のこぎり型」の取引を行ってきた。

 しかし、この手法は発注・納品・ 受入の各作業に手間がかかるため、非効率的でコストや納期増大の要因にもなる。他国との受注競争に打ち勝つには、発注形態を早急に見直し、効率的な生産・供給が可能な複数のサプライヤー(下請けメーカー)連携型の一貫生産体制を構築する必要がある。

 業界のこうした要望に応えたのがJASPAだ。同社は複数サプライヤーによる一貫生産を妨げていた機械加工、非破壊検査などの特殊工程で、米国の審査機関が定める航空機部品加工の国際認証「Nadcap」を取得したほか、独自の生産管理システムを構築するなどして、日本初の中小企業4社共同工場による航空機のエンジン部品の多工程一貫生産を成し遂げた。

中小企業連携の難しさを痛感するも、新潟市に共同工場設立へ

 同社の創業は2004年。神奈川異業種グループ連絡会議が、航空機部品の製造を希望する全国の中小企業に航空宇宙関連市場などへの直接参入を呼びかけ、約130社でつくる「まんてんプロジェクト(航空宇宙開発用部品調達支援プロジェクト)」を立ち上げたのが発端だ。プロジェクトを進めていくなかで、航空機メーカーなどとの受発注の窓口となる会社が必要になり、同社の設立に至ったという経緯がある。

 一口に航空機部品製造といっても、切削や表面処理などさまざまな種類がある。欧米などでは複数サプライヤーによる一貫生産は行われているが、日本ではなじみが薄い。阿部社長は「県境を越えて仕事内容が違う中小企業の集まりでは連携もうまく図れず、参加企業の脱退も相次いだ。中小企業連携による事業の難しさを痛感した」と当時を振り返る。

産官連携で日本、そして世界の空を見据え、エンジン部品を製造する産学官連携で日本、そして世界の空を見据え、エンジン部品を製造する
 複数の企業が一つ屋根の下で連携し、多工程一貫生産を行うエンジン部品の共同工場の建設計画が持ち上がったのは、ちょうどその頃。新潟市が航空機関連産業の支援を積極的に行っていたことや、同社の株式の大半を保有し、精密部品の超精密機械加工などで知られる山之内製作所と、関連企業のYSECが新潟市に工場を持っていた縁も共同工場の設立を後押しした。同社の共同工場は経済産業省や新潟市の補助金を活用。新潟市が推進する産学官連携による航空機関連産業支援の取り組み「NIIGATA SKY PROJECT」の第1弾事業として、YSECの新潟工場に隣接する形で建設されることになった。

航空機部品の製造工場では異例の「自動化設備」導入で24時間稼働

 マシニングセンター(注1)や一部で自動型ロボットを先行導入していたYSECのシステムなどを参考に、最新鋭のIT技術を取り入れた同社の共同工場には、現在4社が入る。同社は受発注や非破壊検査業務のほか、独自開発した生産管理システムを用いて、ほかの製造3社(山之内製作所、YSEC、羽生田鉄工所)の一元管理も行い、航空機業界仕様のトレーサビリティーに対応する。

 同工場ではICチップを取り付けた特殊な治具パレットや工具ホルダー、ロボットによる無人搬送システムなど、多品種少ロットを扱う航空機部品の製造工場では異例の「自動化設備」を導入している。予期せぬ事態が起きた場合の対応策も講じながら、ヒューマンエラーの防止や24時間稼働も実現し「将来、人件費の安い海外企業と張り合うことになっても、コスト競争に打ち勝つためのノウハウはそろっている」と阿部社長は既にその先を見据え、胸を張る。さらに共同工場では請け負っていない工程の製品も受注するため、NSCA(注2)の参加企業に同社の生産管理システムを導入してもらい、連携を図る取り組みも検討している。

 「単なるワーカーではなく、仕事をする重要性を理解してもらい、給与アップが見込める技術者を育てたい」というのが同社の願い。ITの導入効果というと、省人化や効率化といった業務改善の面ばかりに目を向けがちだが、一人ひとりがやりがいを実感できる職場の仕組みづくりや、自社と他社の垣根を越え、「つなぐ」役割としての効果があることも忘れてはいけない。

※注釈
1:マシニングセンター (machining center):コンピューター制御による自動工具交換機能を備え、目的に合わせて穴開け、中ぐり、ねじ切りなどの機械加工を1台で行える工作機械
2:NSCA(Niigata Sky Component Association):「NIIGATA SKY PROJECT」の一環として結成された航空機産業クラスターの名称。各加工のスペシャリストである企業が新潟に集結し、現在は7社で構成

トップの素顔

非破壊検査でNadcapを取得する場合、非破壊検査の技術レベルで最高難易度を示すレベル3の資格を持つ人間を責任者として置くことが義務付けられている。しかし、同社は責任者となりえる人材の確保に難航し、海外の求人サイトを利用するなどしながら、取得までに4年以上を要した。こうした阿部社長の粘り強い姿勢からは、欧米中心の航空機産業を何としてでも新潟に呼び込み、新潟を世界へ羽ばたかせたいという強い意気込みが感じ取れる。

勝負手

  • 非破壊検査でNadcap認証を取得
  • 製造3社の一元管理体制を実現するための生産管理システムを自社開発し運用
  • 生産現場でのスマートデバイスの活用
  • 自動化設備(ICチップ内蔵型のパレットや工具ホルダー、ロボットによる無人搬送システム)の導入
  • ロボットによる無人搬送システムを運用して、工具の使用履歴や操作を記録
  • NSCAの参加企業に自社の生産管理システムを検討

結果

  • 工程の進捗状況の見える化の実現
  • 工数や外注状況なども把握できる管理水準への到達
  • 進捗のリアルタイム管理や作業時間コストの収集・改善の意識付け
  • 工場の夜間における無人化での24時間稼働
  • ヒューマンエラーの防止
  • 過去5年間の売上げの伸びは約2.5倍に拡大
  • 新たなビジネスモデルとしての知名度も向上し、新規案件が増加

会社概要

社名:JASPA株式会社
住所:〒240-0051 神奈川県横浜市保土ヶ谷区上菅田町1317-3
事業内容:共同工場運用、受発注業務(高精度製品の製作)、検査・精密三次元測定業務
http://www.jaspa.co.jp/

攻めのIT経営中小企業百選

【攻めのIT経営中小企業百選】とは

ITの効果的な活用に積極的に取り組み、製品やサービスの付加価値を高め、競争力を高めている中小企業をベストプラクティスとして選定する経済産業省の取り組み。2015年から3年間にわたって1年ごとに数十社ずつを選び、今年5月に合計100社を選定した。

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