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攻める中小企業 勝負の一手

第3回 伝統と最先端が混じり合う老舗の祭り用品専門店の戦略

第3回 伝統と最先端が混じり合う老舗の祭り用品専門店の戦略

 国内には現在、約380万社の企業があり、このうち中小企業に分類される会社は99%以上を占めます。国内の経済基盤を支え、地域経済の活性化を担う、日本経済の「根幹」 ともいえる中小企業には、長年培った伝統を生かして年月を重ねている会社もあれば、最新のIT(情報技術)システムを導入し、独自の経営戦略を打ち出して事業展開をしている会社もあります。
 この企画では、資金や人材が限られる中でITの利活用に積極的に取り組んだ結果、一定の成果を上げ、経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選」に選ばれる理由となった活動事例を基に、将来を見据えてしっかりと前を向く中小企業について焦点を当てます。
 今回は「浅草中屋」の屋号で祭り用品一式を取り扱う老舗、中川をクローズアップします。

オタクと編集者の顔も併せ持つ

 東京スカイツリーの開業をきっかけに、再び観光地として脚光を浴びている浅草。国内外から観光客が押し寄せ、雷門から浅草寺へと続く仲見世通りには、和装小物や菓子などを取り扱う土産物屋が軒を連ね、連日賑わっている。

 そんな下町情緒あふれる浅草で1910年の創業以来、100年を超す老舗として「浅草中屋」の屋号で祭り用品一式を取り扱っているのが中川(東京・台東)だ。同社の取引先は全国的にも有名な神社仏閣が多く、取り扱う品々も半纏(はんてん)、鯉口(こいくち)シャツ、足袋(たび)、提灯、木札など、祭りに用いる装束や小物が大半を占める。

 同社が本格的にITを導入したのは、社長の中川雅雄氏が3代目として実父の跡を継いで入社した80年ごろ。「商品が安い時期に大量に仕入れ、需要予測が外れれば大量の在庫と借金が残るどんぶり勘定」のような、業界では当たり前のように継続してきた経営体制に疑問を抱き、仕入れから在庫管理、受注に至る一連の業務をすべて見直すことにした。

 中川社長は自他ともに認めるパソコンオタク。米国への留学経験もあり、現在も米IBMのユーザー委員として数年に1度は渡米し、最新のコンピューター関連の技術を学ぶ。パソコンをはじめ周辺機器や関連機器の事情に精通しているだけでなく、家業を継ぐ前は出版社に勤務し、編集者としてファッションイベントの企画、運営に携わり、海外を飛び回るなどして活躍した経歴も持つ。

誤差を想定内に抑えられるまでに

 中川社長が趣味と経験を生かしたアイデアを基に、最初に取り組んだのは浅草中屋のブランディングだ。ただ、ブランディングといっても祭りそのものの盛り上がりがなければ、狙いは独り歩きしかねない。そこで神田祭、三社祭などのオフィシャルサプライヤーになり、インターネットイベント、とくに神輿(みこし)の位置情報にも携わるなど祭りの認知度を高め、盛り上がりを演出し、参加者増加のために奔走した。

 同時に業界に先駆けてITを導入し、商売の根本をなすカタログも読みながら商品を注文できるようにITと連動してひと工夫するなど、社員のスキルや経験だけに頼らず、隅々まで行き届いたIT化を積極的に進めた。

 そうした内外に向けた努力が実り、単に売り上げを伸ばすだけでなく、これまで蓄積してきた顧客情報などを集約しシステム化することで、正確な在庫管理が可能になり、経営体質もどんぶり勘定だったころから激変。売り上げ予測の誤差は想定内のプラスマイナス5%にとどめられるまでになった。

 ワンストップマーケティングを実践する製造小売り(SPA)にも力を入れ、取り扱う商品の6割がオリジナル商品。実店舗2店のほかにオンラインショップ販売にも乗り出すなど、季節商品だった祭り用品の全国通年商品化による固定客の獲得にも成功している。

目的に合ったアプリを使いこなす

 同社の経営は中川社長自らがアイデアを発案し、実践していたが、リーマンショック以降は、意識的に現場社員たちとの定期的な意見交換会の場を設けた。データを共有しながら社員に会社の数字を「見える化」し、権限を移譲。そうすることで「社員が以前よりも会社のことを身近に考えるようになった」と中川社長はいう。

 新規顧客開拓の新たな取り組みとして、経済産業省の「革新的ものづくり・商業・サービスの補助金」を利用し、あつらえ品シミュレーションシステム(通称)「中屋ファクトリー」を開発。インターネットで自分だけのオリジナル商品を注文できるようにもした。次々と発案するアイデアはITの知識が豊富な中川社長ならではのように思えるが、ITに詳しくなければできないということはないとアドバイスする。

「中屋ファクトリー」は自分好みのオリジナル商品が注文できる

 「決してITを堅苦しく考える必要はない。ITに苦手意識のある人は身近なスマートフォンなどを使って、スケジュール管理から挑戦してみるのがおススメ」

 自身もタブレット端末を利用して日々のスケジュールを管理し、いろいろなアプリを利用して地道にアイデアを書き留めている。

 まずは自身の目的に合ったアプリケーションソフトを見つけ、それらを思い通りに使いこなせるようになることが、経営者として「攻めのIT」経営を成功に導くための第一歩といえそうだ。

トップの素顔

米IBMのユーザー委員には、同社が1988年に発表したコンピューターシステム「AS/400」(後継シリーズ含む)を導入した会社の関係者に入会資格がある。数年に1度行われる1週間程度の研修には、同社が独自の基準で選んだ特別な委員だけが参加できるという。同社が海外の展示会で中川の取り組み事例を紹介しているなどの縁もあり、中川社長は毎回、研修会に呼ばれている。中川社長は日本IBMユーザー会やALL(全世界)IBMユーザー会の役員も務めた。

勝負手

  • ブランドの浸透、祭り用品の全国通年商品化、オリジナル商品の開発、そして仕入れから在庫管理・受注にいたる一連の業務のシステム化
  • あつらえ品シミュレーションシステム(通称)「中屋ファクトリー」の運用

結果

神輿の位置情報をリアルタイムで把握できるようにするなど、新たな試みを積極的に取り入れた地元の祭りへの貢献度が実を結び、伊勢神宮の遥宮(とうのみや)として位置づけられる小石川大神宮(東京・文京)の総代を務めるほか、浅草サンバカーニバルの事務局長にも任命されるなど人脈が広がる。さらに、人が人を呼ぶように人脈が顧客の獲得にもつながり、自社の売り上げも拡大。

会社概要

社名:中川株式会社
住所:111-0032 東京都台東区浅草2-2-12
事業内容:祭用品の小売り、通信販売
http://www.nakaya.co.jp/

攻めのIT経営中小企業百選

【攻めのIT経営中小企業百選】とは

ITの効果的な活用に積極的に取り組み、製品やサービスの付加価値を高め、競争力を高めている中小企業をベストプラクティスとして選定する経済産業省の取り組み。2015年から3年間にわたって1年ごとに数十社ずつを選び、今年5月に合計100社を選定した。

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