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攻める中小企業 勝負の一手

第2回 明治大学経営学部教授・岡田浩一氏インタビュー

第2回 明治大学経営学部教授・岡田浩一氏インタビュー

国内には現在、約380万社の企業があり、このうち中小企業に分類される会社は99%以上を占めます。国内の経済基盤を支え、地域経済の活性化を担う、日本経済の「根幹」 ともいえる中小企業には、長年培った伝統を生かして年月を重ねている会社もあれば、最新のITシステムを導入し、独自の経営戦略を打ち出して事業展開をしている会社もあります。
この企画では、資金や人材が限られる中でIT(情報技術)の利活用に積極的に取り組んだ結果、一定の成果を上げ、経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選」に選ばれる理由となった活動事例を基に、将来を見据えてしっかりと前を向く中小企業について焦点を当てます。

第2回は「攻めのIT経営中小企業百選」の選定委員長を務める明治大学経営学部教授の岡田浩一氏に、「攻めのIT経営中小企業百選」の選定に当たり、企業のどういった点を評価したのか、ITの利活用によって中小企業の未来が今後、どう変わるのかについて話を聞きました。

ITの利活用による効果が出やすい
製造業の応募割合多く

―― 最初に「攻めのIT経営中小企業百選」の応募状況や業種の比率についてお聞かせください。

岡田 「攻めのIT経営中小企業百選」の前身として「中小企業IT力経営大賞」、さらにその前は「IT経営百選」を設け、これまで10年以上にわたってIT(情報技術)の利活用に積極的に取り組む中小企業を選定してきました。攻めのIT経営中小企業百選は、2015年から3年間にわたって実施され、全国から400社を超える応募があり、前身の中小企業IT力経営大賞なども含めれば、様々な業種、業態、企業規模、地域の中小企業から2000社を優に超える応募がありました。

統計上の中小企業の業種構成比は卸・小売業や建設業の比率が高いのですが、応募状況という点では、製造業の比率が最も高く、次いで卸・小売業、サービス業の順になっています。製造業の応募の比率が高いのは、おそらく生産ラインとバックヤードをつなぐIT導入とその成果が見えやすいことが影響しているのではないでしょうか。

あるべき姿をイメージし、
実現させるための分析と行動を明記

―― 百選の選定では、特にどのような点を評価されたのでしょうか。

岡田 百選は応募書類に基づき、有識者などで構成する「攻めのIT経営中小企業百選選定委員会」が4つの視点で厳正かつ公正に実施しました。主観的な見方を排除するため、すべての応募書類に複数の委員が必ず目を通す体制になっています。また書類審査に加え、書類審査で上位に入った企業を対象に、応募書類の内容が実際の現場と相違ないか、企業を訪問して直接、確認もしました。

評価した4つの視点

出所:経済産業省「攻めのIT経営中小企業百選」

審査員が特に重点を置いたのは、ITを活用しての新製品、新サービスの開発力強化や情報分析による新市場開拓や顧客開拓、あるいはビジネスモデルの変革など、社外環境への働きかけが業績にどうつながっているかという点です。ITの利活用が事業の拡大や売り上げの増加に、しっかりとつながっていることが重要なのです。

IT導入の目的を社内完結する業務効率化、コスト削減にとどめてITを利用しているだけでは、IT経営とは呼べません。自分たちの会社の経営課題を分析し、社会の変化にどう立ち向かっていくのか。きちんとしたビジョンを持ち、あるべき姿をイメージして、そのイメージを実現させるための方策を検討する。そして、経営計画を明記して、それを遂行していくことがIT経営の基本になります。その前提として「SWOT分析(※)」をしっかりしておくことが必要です。

※SWOTは強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の頭文字をとったもので、内的要因=強み、弱み、外的要因=機会、脅威の4つの要素で現状を把握して分析する手法

ヒトという経営資源をITによって
効果的に活用し、価値を提供

―― 百選に選んだ企業で、特に印象に残った取り組み事例には、どういったものがありましたか。

岡田 百選に選んだ100社は、使っているツールもアプリケーションも手法もそれぞれ違いますが、共通しているのは市場、消費者、取引先企業、これらの人々が求める価値をITによって拾い上げ、極めて効率的に提供しているという点です。

明治大学経営学部教授・岡田氏

明治大学経営学部教授・岡田氏

中小企業はヒト・モノ・カネ・情報という経営資源が大企業に比べると乏しいと言われますが、その中でもヒトという経営資源は可能性に限界がない資源と言えます。選んだ企業で特に印象に残っているのは、ヒトという経営資源をITによって効果的に活用し、価値を提供している取り組みです。
介護サービス事業を手がけている企業の話になりますが、この企業はフルタイムで働くのは難しいが、その代わりに隙間時間なら介護士として働けるという人々を「グループウエア」を使ってスケジュール管理し、それぞれのライフスタイルに合わせて働けるようにしました。またシームレスな業務を展開していけるよう、利用者の介護サービスの内容が記された日報情報の共有なども行い、事業者間での均一な介護も実現させました。

介護事業は長らく人手不足が叫ばれていますが、この企業ではそうした課題を克服して、過去5年間の売り上げの伸びは約2.7倍となり、専門職員の定着率向上や、利用者満足度評価が上がるなど、様々な効果が見られたのです。働きたくても働く場がないという人々を活用したこのようなダイバーシティー経営は、少子高齢化などで人手不足に悩む業種にとっても非常に参考になると思います。
自社のウェブサイトに訪問した人が、サイト内でたどった経路を追跡するログ解析を行うことで売り上げを伸ばした企業も印象に残っています。この企業はプラスチック段ボールの製造販売を行っているのですが、同業他社が苦手とする「多品種少量市場」の注文に重点を置き、検索エンジン最適化(SEO)対策に資金を投入して、小ロット需要の顧客に向け、自社のウェブサイトをPRして集客するプル(Pull)型営業を行っているので、営業はほとんど行っていません。
1社から大ロットの仕事を受けるという業界の慣習に対して、日本中の小ロットのニーズを集めていくほうが大きな仕事になると発想の転換をしたのです。自社のウェブサイトをPRするだけでなく、受注見込みのある顧客を見いだすためのログ解析も行っているので、最低限の営業活動だけで利益を上げることができています。
こうした取り組みは、人手不足で営業に人員を割けない中小企業にとっては、1つのモデルケースになると思います。

サービスの進化とともに所有から
利用へと変化しつつあるIT

―― 中小企業が「攻めのIT経営」を積極的に導入することで、今後どのような変化が生まれるとお考えですか。

岡田 経営学では資源ベース理論という考え方があります。これは、企業にはヒト・モノ・カネ・情報の4つの経営資源と、目に見える資産、目に見えない資産、組織の力という3つの企業資産があり、この7つの要素の組み合わせは、全世界どこを見ても全く同じものはなく、各々の会社が持つオンリーワンの良さを生かしていく必要があるということを意味しています。当然ながら、ITもそれぞれの会社の活用仕方で方向性が違ってきます。
私自身は「攻めのIT経営」は画一的なものではなく、ITは、それぞれの会社がそれぞれに適した、それぞれ目指すものを追求していくためのツールにすぎないと思っています。ITというツールを使って企業の価値を高めるということが、企業の「稼ぐ力」や業績を高めていくことにつながると考えているのです。「攻めのIT経営」というのは、つまり「価値創造経営」なのです。
 

講演する岡田氏

講演する岡田氏

一昔前のITは所有するものとしての認識が高く、初期投資にも高額な費用が必要でした。現在はクラウド事業者がIT資源をサービスとして提供することによって、ユーザーは必要に応じてITを柔軟に利用できるようになりましたので、企業の情報システムに対する考え方も「所有」から「利用」へと変化しています。
ITを導入するための初期投資は以前と比べれば低額で済みますし、ITと企業経営の両方の知識を持つIT化支援サービスの専門家「ITコーディネータ」にアドバイスをもらったり、クラウドのお試しサービスを利用したりすることもできます。「利用するIT」を中小企業は今後もどんどん取り入れていくべきだと思います。

中小企業の経営者には、会社をもっと良くするために、あるいは自分たちの企業理念を実現していくために、どうしたらいいのかを常に考えていただきたいと思います。変化する社会に対応するために取り組んでいく行為こそが「攻めのIT経営」そのものではないでしょうか。
時代によって社会が抱える課題は変化します。今だと働き方や人手不足といった問題が挙げられますが、ITの活用は時代の課題を克服していくことにつながっていると思います。ITが課題を100%克服するとはまでは言いませんが、少なくとも一歩前進させていくものであると確信しています。

※次回から「攻めのIT経営中小企業百選」に選定された企業の取り組み事例を掲載していきます。


攻めのIT経営中小企業百選

【攻めのIT経営中小企業百選】とは

ITの効果的な活用に積極的に取り組み、製品やサービスの付加価値を高め、競争力を高めている中小企業をベストプラクティスとして選定する経済産業省の取り組み。2015年から3年間にわたって1年ごとに数十社ずつを選び、今年5月に合計100社を選定した。

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