ビジネスパーソンのキャリアアップ・転職について考えるニュース・コラムサイト

攻める中小企業 勝負の一手

第1回 経済産業省商務情報政策局・藤岡室長インタビュー

第1回 経済産業省商務情報政策局・藤岡室長インタビュー

国内には現在、約380万社の企業があり、このうち中小企業に分類される会社は99%以上を占めます。国内の経済基盤を支え、地域経済の活性化を担う、日本経済の「根幹」 ともいえる中小企業には、長年培った伝統を生かして年月を重ねている会社もあれば、最新のITシステムを導入し、独自の経営戦略を打ち出して事業展開をしている会社もあります。
この企画では、資金や人材が限られる中でIT(情報技術)の利活用に積極的に取り組んだ結果、一定の成果を上げ、経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選」に選ばれる理由となった活動事例を基に、将来を見据えてしっかりと前を向く中小企業について焦点を当てます。

第1回は「攻めのIT経営中小企業百選」の選定を管轄する経済産業省商務情報政策局地域情報化人材育成推進室長の藤岡伸嘉氏に、生き残りをかけて中小企業が挑む「攻めのIT経営」の概要と、ITの利活用によって中小企業の未来が今後、どう変わるのかについて話を聞きました。

「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」ために必要な
「攻めのIT経営」とは

―― まず「攻めのIT経営中小企業百選」を実施した背景とその狙いをお聞かせください。

藤岡 発端は3年前、政府がまとめた「日本再興戦略改訂2014」に、「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」という内容が掲げられたことにあります。そこには日本がしっかりと稼ぐ力を取り戻すために「生産性の向上」が必要ということが示されました。

これまでの中小企業のIT(情報技術)活用は、せっかくコストをかけてITを導入しても、人員を削減して一時的に収益を押し上げる、個別業務を効率化するなど、企業内の一部の活用にとどまる〝守りのIT投資〟がほとんどといってもいいほどです。「商品の売り上げは向上しているか」「顧客満足度は高まっているか」「新たな販路が獲得できたのか」など、ITの導入によって得られる付加価値にまでは、なかなか目が届いていなかったように思えます。

攻めのIT経営中小企業百選表彰式

一方、〝攻めのIT投資〟では、例えばITの導入によって人員を削減するだけではなく、削減した人員を新規事業に配置転換する、手薄になっていた部署に増員するといったようなことが目標となります。
さらに顧客や消費者の動向や、対応する従業員一人ひとりの動きをデータ化して蓄積し分析するということも行われますので、しっかりとヒト・モノ・カネの管理ができ、ビジネスチャンスを逃がすことも少なくなります。

IT投資によって付加価値を高めて生産性を上げ、さらに消費者や自分たちの状況を「見える化」することで、メリハリのある経営が可能になる。これこそが「攻めのIT経営」なのです。 中小企業の規模は様々ですので、従業員が数人程度の小規模事業者に対して、一様にITの導入推進と旗を振っても、なかなか伝わりづらく、理解しづらいこともあると思います。
そこで、実際に中小企業が取り組んで成果を上げた「攻めのIT経営」の事例を紹介できれば、攻めのIT経営がどういうものなのかを理解し、生産性の向上を目指して実行に移していただけるかもしれないということから、今回の制度を設けました。同時に「攻めのIT経営」に成功した中小企業で働く魅力を、より多くのビジネスパーソンを中心に伝えたいとも考えました。

変わりゆく消費者のニーズと多様化する
情報化社会に対応するべき

―― なぜ今、中小企業に「攻めのIT経営」が求められているのでしょうか。

藤岡 消費者を対象とした「小売り」で見ると、一昔前は、モノを売るというと対面販売による手法が主流でしたが、そこに電話やテレビ、そしてインターネットを使った手法が加わり、現在ではさらに進化して、交流サイト(SNS)や電子商取引(EC)サイトを活用した手法が主流となってきました。
例えば顧客に対し、丁寧な商品説明を行ってきた接客の仕事は、企業のウェブサイトなどに掲載された製品紹介の動画が代わりを務めるようになってきています。

消費者が求めるニーズも時代とともに変わってきていますから、ニーズの変化に柔軟に対応していくことは、事業を継続していくうえで、ごくごく自然な流れではないでしょうか。もちろん、ビジネスを行う場所、形態、そして状況によっては「攻めのIT経営」が反映されないケースもあると思います。
しかし、今後も事業を継続していくのであれば、業績改善などで効果が見られるITシステムを積極的に導入し、多様化する情報化社会にきちんと対応していくべきだと考えますし、それができるポテンシャルを数多くの中小企業が持っていると思います。

問題意識を持ってITを導入し
見える化させることが重要

―― 中小企業が「攻めのIT経営」を成功させるためのポイントはどこにあるのでしょうか。

地域情報化人材育成推進室長・藤岡氏

藤岡 ITという言葉に流されてITを導入するのと、自らの問題意識を持ってITを導入するのとでは効果に大きな差が出ます。今回の審査の基準にも含まれていますが、「攻めのIT経営」課題に基づく経営方針や経営上の数値が経営トップによってきちんと示されていることは、成功への近道になると思います。
ITを導入したらそれで終わりではなく、ITを使ってどんなことが行えているのか効果を分析し、ITを活用できる人材の確保や社内体制をきちんと整えることも忘れてはいけません。

ITに関して社内に詳しい人がいない場合は、経営に役立つIT利活用に向け、経営者の視点で助言・支援が行える「ITコーディネータ」を活用するという方法もあります。
今回の百選に選ばれた企業にも、ITコーディネータの助言によってITを導入し、売れ筋の把握をデータ分析を行って見える化した結果、会社が持つ強みと弱みが明らかになり、これまでとは全く違う販売手法を構築して、Ⅴ字回復を成し遂げたという事例がありました。
百選の企業には、IT投資に多くの費用をかけづらい小規模企業も含まれています。アイデアや考え方を少し変えることで、小規模企業であっても何かしらのチャンスはあるはずです。

中小企業の未来は注目が集まる
「第4次産業革命」への対応が鍵に

―― 最後に、中小企業を取り巻く環境が今後どう変化するのかなど、中小企業の未来についてお聞きかせください。

藤岡 ITの変化は非常に早く、世界の様々な産業分野で人工知能(AI)やロボット、IoT(モノのインターネット化)などの最新技術を駆使して、全工程を人の手を介さずに自動化する「第4次産業革命」に注目が集まっています。定期的に取引が行われる企業間の関係を維持していくためには、こうした変化にも敏感に対応していくことになると思います。
少子高齢化による人手不足、後継者不足、国際動向の変革など中小企業を取り巻く環境は楽観視できませんが、日本経済を持続的、安定的に成長させていくためには、中小企業が「攻めのIT経営」による稼ぐ力を強化することが必要不可欠ですし、日本の将来のためにも〝攻めのIT投資・利活用〟をさらに進めていってほしいと思っています。

※次回は、「攻めのIT経営中小企業百選」の審査委員長を務めた明治大学経営学部教授、岡田浩一氏のインタビューを掲載します。


【攻めのIT経営中小企業百選】とは

ITの効果的な活用に積極的に取り組み、製品やサービスの付加価値を高め、競争力を高めている中小企業をベストプラクティスとして選定する経済産業省の取り組み。2015年から3年間にわたって1年ごとに数十社ずつを選び、今年5月に合計100社を選定した。

» 攻めのIT経営中小企業百選の詳細はこちら